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家庭科大好き
服地調達
しおりを挟む「たった一つだけ、克服できないことがありまして…」
1985年 学期でいえば1学期某日
県立Y女子高等学校 被服室
児島ミチル
普通科2年F組 出席番号17番
◇◇◇
その日児島ミチルは、同じクラスで仲のいい片岡ナオミと一緒に、きねやデパート2号館・地下に来ていた。
ここには服地や裁縫用品、ミシンなどがワンフロアいっぱい使って売られている。2人は家庭科の授業でジャンパースカートを縫うため、ブロード布を買いにきたのだ。
〇色・柄は自由だが、チェックやストライプは柄の縫い目を合わせにくいので避けること
〇ボタンなどの副素材も、布地に合わせてセンスよく…
授業で言われたことを生真面目にメモして持ってきたミチルが、小さな声でそれを読み上げた。
「それ、実質的に無地だけってことだよね」
「水玉とか花柄とか、柄が散っているタイプならいいんじゃない?」
「チェックがよかったのになあ。柄が合わなくたっていいじゃん。
自分で着るだけだしさー」
と、ナオミはいかにも不満そうだが、そもそも縫い上がっても着る気は全くないのだろう。授業で必要だから、もっといえば単位のために渋々縫うだけだ。
2人の通っている学校には家政科があり、「洋裁部」というのが部活としてあるなど、家庭科が盛んである。
他校生に卒業アルバムを見せると、大抵「何で家庭科の先生、こんなにいるの?」と驚かれるのだ。
2人は普通科だったが、1年生のときの「家庭一般」は食物と住居関係だったため、無難にそこそこの成績を取って進級した。
しかし今年は「被服・保育」の分野を履修するようになるらしい。前期は被服分野で、まずはジャンパースカートを縫うことになっていた。
ナオミは文句を言いつつも、その分野もまあまあ無難にこなすだろうが、ミチルは裁縫が苦手だった。というよりも、さらにピンポイントに言えば、「ミシンが絶対無理」である。
これは小学校高学年の頃から変わらないらしく、常々「私、絶対グレない。だって女子少年院なんかに入ったら、ミシンをやらされるんでしょう?アレをやるくらいなら、マジメに生活する方がいい」と公言してはばからなかった。どうやらドラマか何かで見たシーン(※下記注)が固定イメージになっているらしい。
服地を見るのは楽しいが、どうせ自分の腕にかかったら無残なことになるだろうから、きれいな色やかわいい柄を買う気はさらさらなかった。
「ミーちゃん(ミチルのこと)なんか、それこそ赤いギンガムチェックとかすごく似合うのになあ」
ナオミはミチルを常々、小学生みたいだと言っていじっていたが、かわいらしい柄が似合いそうという意味ではうらやましがっていた。
「そう言ってくれるのはうれしいけど、私に縫われる布がカワイソウだから…」
結局、ミチルはチャコールグレーの服地を選び、ナオミはそれよりも少し明る目のグレーにした。
※タイトルは忘れたのですが、北原佐和子さん主演の単発ドラマで、女子少年院に入った北原さん(が演じた少女)が、洋裁の実習中、後ろからハサミか針か何かで突かれるというイジメを受けるシーンがありました。伊藤麻衣子(現・いとうまい子)さんの『不良少女と呼ばれて』だったかもしれません。まあその辺です。
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