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第34話 子供の成長【妻】

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 夫、身長160センチ台後半、私、150センチ台前半。
 2人で並んだときの、身長のバランスは悪くないと思うが、この2人が夫婦で子供がいると知った人は、多分あまり大きな子供は想像しないだろう。
 大きな――って、年齢ではなくて体の大きさ的な意味でね。
 身長や体格も、(全てではないにしても)遺伝の要素は大きい。
 頑張ってもある程度までしか大きくならない人もいれば、何もしていなくても体格のいい人もいる。そういうものだ。

 娘が生まれ、日々喜んだり悩んだりしながら必死に育ててきた。
 夫とはそれなりに仲よくしているし、仕事も家庭も安定していて、夜の生活もそれなりだ。
 育児でだんだんと要領を得てくると、2人目も…なんて欲も出てくるけれど、まだ具体的には考えられないので、とりあえず避妊はしている。
 基礎体温を測るとか、ピルを飲むとかいったことではなく、ゴムの膜1枚が頼りの世界なので、「できちゃったらそのときはそのとき」程度の緩い対策だけどね。

***

 そうこうしているうちに、娘は小学校入学を目の前にしていた。
 入学式で着る服や靴、ランドセルその他もろもろを買いに、ショッピングセンターに行くことになった。
 サブバッグや上履き入れは、娘が気に入っているウサギキャラのキルティング生地を買って、手でつくることにした。
 ランドセルは好きな色を選ばせようとしたら、前年の型落ち品で安くなっていたものを見て、娘が「これがいい!」と飛びついたので、想定した額よりかなり安かった上に、予約や注文ではなく、現品を持って帰ることができた。

 色はバーミリオンで、優しいが華やかな赤色。
 ピンクやアクアブルーといった変化球の色が割と一般的になってきたところだったので、ちょっとクラシックな感じはするけれど、それでもまだ赤を選ぶ女子は多いみたいだ。
 シンプルなステッチだけれど、小さなリボン型の黄色いスタッズがワンポイントでついているのが特に気に入ったようだ。

「いいの選んだね」「かわいいよ」「よく似合ってるよ」

 ご近所さんに声をかけられたり、夫の実家でちやほやされたりするのがうれしいようで、娘はお式用の服を着て、ランドセルをしょって、大人たちに見せびらかした。そのたび「ふふん」といい気になっている表情をするのもまた、コアクマ的で好評だったりする。なんと末恐ろしい。

 兄や母に写真を送ったら、「昔のお前そっくりだね」と言われた。

 そういえば、私はランドセルをしょって学校に行っていた頃、「おじさん」にらしい。
 自分の軽率さを棚に上げてナンだけど、「不審者へんなひとには気を付けて」って教え込まなくちゃ。

***

「あの子って、年の割に足が大きいみたいだね」

 夫がある日の晩酌中、ふと思い出したようにそんなことを言った。

「そうなの?まあ小さくはないと思うけど」

 式服に合わせて買ったローファーや上履きは、たしか20センチだった。
 身長はむしろ平均より少し小さく、体重もその身長に相応な程度。

「職場のオバサン社員にいろいろ聞かれてさ。俺もたまたま覚えていただけだけど、もし答えられなかったら『自分の子供に無関心すぎ!』とかキレられるからなあ…」

 あの「悪い人ではないが距離感がおかしい」とか「お節介」とか愚痴っている人だろうなと、少し同情しつつ、笑ってしまった。

「で、体が小さくても足が大きいなら、これから身長伸びるんじゃないかってさ」
「ああ、それよく聞くけど、本当かなあ…」

 当時人気のあった女優で、身長は170超えなのに足のサイズは22センチという人がいたので、まあ人によりけりだろうと思い、さらっと流した――つもりだったが、夫はもう少しだけこの話題を引っ張った。

「俺たちの娘がすらっとした長身になってくれるなら正直うれしいけどね。顔は君にそっくりだし、将来はスーパーモデルかあ?」
 ほろ酔いの夫がにやにやしながらそう言った。
「すーぐ調子に乗るんだから」

「しかし…うちの親もどっちかっつうと小さい方だし、君のところもだよね?突然変異か?」
「でもお義兄さん、割と大きいじゃない。うちの兄さんも180だし」
「2人ともスポーツ経験者だから、伸び盛りに伸びた感じじゃない?」
「あ、そうか。じゃ、野球やっているあなたもこれから伸びるかもよ?」
「だったらいいけどね!」

 夫は娘が1歳になる頃、野球クラブに戻っていた。
 予定が合えば練習試合を見に行くこともあるが、幸い、いつだったかのように変な男に絡まれることはない。

「身長とかは遺伝っていうからなあ。まあ、期待しないで楽しみにしとこうか」

 身長、遺伝…。
 
 「おじさん」は大柄な人だ。背が高く、細身で、それでいて筋肉がしっかりしている。
 思い出すと赤面しそうな、ちょっとした理想の肉体の持ち主だ。

 娘はちょっとお人よしなところが夫に似ていると思うが、肉体的な特徴でいうと完全に「私似」だとみんな思っているし、夫もそのことについて不満を言ったことはない。

 血液型にも「矛盾」がないので、多分夫はつゆほども疑っていないのだろう。
 娘の本当の父親が「誰か」ということを。

 慣らし保育中によその男と2人きりになるような母親ではあるけれど、少なくともここ6年、(相手が誰であれ)そういったことは一切していない――と誓える。

 (ここで突然カミングアウトして、仲のいい父娘の間を引き裂くこともないよね)

 私はそんなふうに都合よくすり替え、己の罪悪感を振り払った。
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