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第10話 ナミダ【俺】
しおりを挟む分かる人には分かる古のオタクネタを含みますが、気にせず「そういうもの」と思って呼んでいただければ幸いです(筆者)
◇◇◇
俺の中では完全にセックスフレンドでしかなかった色白ちゃんが、やらかしてくれた。
仲間との飲みで深酒し、彼女の部屋に泊めてもらうことになったとき、つぶれて寝てしまった俺の私物をあさり、アドレス帳から番号を見つけてカノジョに電話をしたのだ。
カノジョの名前も教えたことがなかったはずだが、高校時代からの付き合いだということは言っていたし、案外セックスの最中に、感極まってうっかり名前を言ってしまったのかもしれない。
自分ならそういうことをやりかねないなあと思うので、いろんな意味で自己嫌悪に陥った。
当のカノジョは俺に一言もいわず、色白ちゃんの自己申告だった。
俺の浮気を知ってもそれで責めることはしない。カノジョらしい。
さすがに俺は怒ったが、自分の告白でそういう展開を計算していたであろう色白ちゃんは、ここぞとばかりに女の武器を出してきやがった。
「あなたが好きなんだもん。私もうセカンドなんて嫌だよ」
泣きながら言う色白ちゃんに腹を立てながらも、どうしても「お前なんて、セカンドどころかただのセフレ」だとは言えない。
ただ、さすがの俺も懲りた。
合意の上で体の関係を一度でも持ってしまった男女は、絶対に一度では済まない。
あの夜彼女を抱いて、しかも一度では済まなかった俺のせいだ。
カノジョがいると知っていながら「抱いて」と言った色白ちゃんに、全く責任がないとは言わないが、「逆恨みして言いふらされたら」なんて言い訳をしつつ応じたのは俺だ。
「カノジョが好きなんだ。君とそうなる気はないよ。もうここには来ない」
『黙れシロブタ』という言葉が出かかったのをぐっと抑え、その後、俺と色白ちゃんは卒業までよそよそしく接した。
要するに、あのときは色白ちゃんの大きなおっぱいを味わいたいと思ってしまったことは認めよう。だが、それだけだ。
カノジョのおっぱいだって、小柄で細い体の割には豊かで形も素晴らしい。
高校時代、オタクっ気のある友達に見せてもらった『まんだりん★ほいっぷ』という非常にどエロいアニメの主人公・麗美ちゃんのおっぱいが、カノジョのバストそっくりだったので、しばらく『カノジョとのセックス』という夢を、二次元のような三次元のような不思議な作画で体験したことがある(控え目に言ってサイコーだった)。
ついでにヘアスタイルもちょっと似ていたので、俺の中での麗美ちゃんは、完全に実写版のカノジョだったと言えるかもしれない(これ、麗美ちゃんとカノジョを逆にしたら、なんかゲスいな…)。
「お前はあの子のムネ見たことあんだろ?麗美ちゃんとどっちがいい?」
一緒に見ていた友人が、下着を脱いで棒をこすり出しかねない勢いで聞いてきた。
俺は『平凡で何の取り柄もないが、カノジョがやたらかわいいけしからん男』という定評があったので、この手のことではよくからかわれた。
このときはたまたまアニメキャラクターだっただけで、ヌードグラビアをネタにからかわれることも多い。
多分、エロいおっぱいとカノジョのとかわいい顔を頭の中でドッキングさせ、いいズリネタにしようという魂胆だろう。そんなものには協力できない。
「言えるか、そんなこと」
「てことは、ホントに見たことあんの?もうヤッたの?」
「うるせっ」
まあ考えてみたら、俺が口を割ろうがどうしようが、そういうどうしようもない妄想をする男は普通にいたろう。
俺だって彼女がカノジョでなかったら、同じことをしているはずだ。
俺と連中の違いは、彼女の声がどれだけ愛らしいか、どんなにおいか、触り心地はどうか…までを、ぼやっと脳内再生できるところだ。
麗美ちゃんの声優もかわいい声だと思うが、俺の耳にはカノジョの声の方がエロい。
ちなみに麗美ちゃんの声優はちょうど同時期、健全な子供向けアニメ『白夜の天使アイラ』のヒロインも務めていたため、それ目的で毎週日曜の夜見ているうちに、『アイラちゃんがかわいいし賢いし、もうさいこーなんだよ。話も傑作だし』と、まんまとはまってしまったヤツもいたようだ。
二次元の小学生の女子相手に何言ってんだかなあ(つまり俺も見ていたが、かーちゃんが好きだったから付き合いで見ていただけだ)。
俺ももっと大人になったら、ロリータ趣味的なものが理解できるんだろうか。
『アイラ』放送の年に彼女と初めてセックスした俺は、余裕しゃくしゃくでそんなことを考えた。
◇◇◇
色白ちゃんが自爆後、カノジョに「どうして電話があったことを言わなかったのか」と問いただした。
カノジョが何も言わない以上、必要なかったのかもしれないが、わだかまりが残るのは嫌だ。
さて、久々の家デートで1回シた後、聞いてみた答えは。
「だって…もしその子に気持ちが傾いて、私に言えないだけかもと思ったら、ちょっと怖かったから…」
俺も伊達にカノジョと長年付き合っているわけではない。
健気で気弱に思えるこのセリフ、どうにもごまかし臭く感じ、素直に受け取ることができなかった。
「もし俺の気持ちが彼女に傾いていたら、どうする気だったの?」
「悲しいけど、お別れするしかないよね」
うそでもいいから、どうして『ヤダ。別れないから!』って言ってくれないんだ?本当はオレと別れたいとか思っているのか?
「それは――君にとってその方が好都合だってこと?」
「どういう意味?」
「君は昔からモテモテだからな。俺なんかにこだわらなくても…」
「…して」
「え?」
「どうして、そんなこと言うの?」
「私、あなたじゃなきゃ嫌だよ」
うつむいていたカノジョが顔を上げたとき、大きな目に涙をたっぷりたたえていた。
泣かせたかったわけじゃない。
この涙が本物でも紛い物でも関係ない。今この子を泣かせたのは、間違いなく俺だ。
「ごめん。ひどいこと言った。俺最低だな…」
「私こそ…あのとき話すべきだったんだよね。ごめん」
ここはもう、仲直りセックスしかないだろう。
カノジョとシて満足できなかったことはほぼないが、それにしても心なしか、1度目よりさらに気持ちいい。
◇◇◇
卒業後、俺も彼女も地元で職を見つけ、結婚した。
新婚生活は2人だけで楽しむ予定だが、折を見て彼女の両親と同居することになりそうだ。
2人ともいい人たちだし、ゆくゆくは二世帯住宅を組む予定だし、同居にそこまでの不安はない。
旅行から帰ってきた翌月、カノジョの妊娠が分かった。
カノジョは就職したばかりなので戸惑いがあったみたいだが、俺は喜びの方が大きかった。
――などと言っているうちに、流産してしまった。
「不育症かどうかは今の時点では分かりませんが――流産はくせになる可能性がありますから、今後も気を付けてください」
医師の言葉を重く受け止めて、カノジョ――いや「妻」を一層大事にしなければと決意した。
妻は退院後、一晩中泣いていた。
「ごめんね――病院でガマンしてた分が噴き出しちゃったかな…」
無理して笑おうとする顔が哀れで、健気で、美しい。
「いいんだ。泣きたいだけ泣いてくれ」
俺は妻の笑顔にも涙にも弱い。
そして何度もそのどちらかにだまされることなど、このときは知る由もなかった。
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