短編集『朝のお茶会』

第7話 1年後

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再び『花ざかりの少年少女たち』の面々が登場します。

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　2012（平成24）年3月11日　3月例会

　前年の3月11日は金曜日だった。
　通常なら1年後の同じ日は土曜日になるだろうが、2012年はうるう年に当たるため、3月以降は曜日が1日飛んで、日曜日になった。

　あの地震と原発事故からちょうど1年後で、しかも日曜日となると「イベント」にはおあつらえ向きのようで、他県から大勢の脱原発・反原発の「（特殊な）市民」が駆けつけ、「原発にノー！F県民決起集会」という、当のF県民は一体どれぐらい参加するんだか分からないような集会が、片山市役所近くの五十鈴川いすずかわ公園野外ステージで開催されるという

「何となく予想はしていたけれど、本当、やんなっちゃうわね」
　五十鈴川公園の道路を一本挟んで向かいの高層マンションに住んでいる滝田たきたさんという女性が、ため息交じりに言った。
「何かビラがポスティングされてた。
　一応時間になったら黙祷はするらしいけど、
　その後に“シュプレヒコール”とか書かれてたわよ？
　物騒だし、うるさそう…」

　大学進学で一時期は片山を離れていたが、Uターン就職の後に同郷の男性と結婚し、生まれも育ちも片山という、おっとりした気のいい40代の女性だ。
　小学生の子供がいるため、事故後は遠方の親戚から、しばらく子供をこちらに避難させないかという声がけもあったらしいが、ただでさえ引っ込み思案でいじられの男の子が、震災も経験して不安定なときに、親元を離れた先でどんな心理状態になるか――を想像したら、とても“厚意”を受け入れる気にはならなかったと言う。

　滝田さんは、そうして普通の生活を続けているだけの子供たちが「F県に残った」と表現されることにも違和感がある。どう考えても自主避難をする人たちの方が少数派だ。
　自主避難する人たちに反感を覚えたり、攻撃したりする人も皆無ではないだろうが、大抵の人は、よそに行くと言われれば「そうですか。残念です」、帰ってくれば「お帰りなさい」と言うのみ。
　被害妄想なのか、「放射能が怖くて逃げたけど、田舎に帰ったらきっとフルボッコだから帰るに帰れない」などとネットで書きまくる者もいる。また、その声だけを「被害者の声」として拾って取り上げるマスコミにも食傷気味だった。

　滝田さんの話を受け、同じく40代の片山っ子である三瓶さんぺいさんという女性が言った。
「うちの近くのカルチェランドでも何かやるってポスター見たよ」
　カルチェランドというのは、片山唯一の遊園地「メルヘン王国」や市民プール、体育館などで構成される郊外の広い施設だ。高速のインターから近いので、車で駆け付けやすいのではと想像される。
「そっか、そっちでも。あの“界隈”も、いろいろと流派があるのかな？」
「私らから見たら、どっちもこんな田舎まで遠くからわざわざご苦労さん、だけどね」
「一応呼びかけ人はF県関係者ばかりみたいだったけど、参加者はどうかなあ」
「どっちにしても、片山ここは原発からは大分離れてるのにね」
「片山って無駄に道の便だけはいいからさ。
　何かF県ってだけで、いいように利用されてる感じがするわ」