2 / 30
第1章 さようなら
「そういうこと」
しおりを挟む
夫婦でも恋人同士でもいいけれど、浮気されたとき、された側を「男(女)を見る目がなかった」とか言って嗤うやつ、ほんとに何様なんだろうと思う。
小学校で教わらなかった?
「悪い人は、人を警戒させずに悪いことをするために、最初はいい人みたいな顔して近づいてきますよ」って。
あ、これは少し違うか。
こんな言葉で小学生に教えを説くのは、変わり者として定評があった、私の小学3・4年生のときの担任の福山先生くらいか。
騙す人は、騙す意図をもって殊更いい顔して近づいてくるし、もしそういう意図がなくても、途中で気が変わったり、状況が変わったりすることはざらにある。
これは人柄とは無関係に、そういうものだと思う。心なんて本人でも制御不能になる場合はあるものだ。
▽▽
ちなみに、私を振ったばかりの男(見た目は誠実そう、とよく言われていた)は、別れ話のときにこう言っていた。
「俺も男なんだから、そういうことだってあるんだよ…」
ちなみに「そういう」には、「私の出張中、高校時代のモトカノと偶然居酒屋で会い、寂しさとムラムラからやっちゃった」が入る。
私も一度や二度の浮気に目くじらは立てないつもりだったけれど、その女に「今、妊娠8週目」と打ち明けられ、「できたら堕胎してほしい」とバカ正直に頼んだら「自殺する」と言われ、「だから結婚することにした」までつくと、男だから~とか言ってる場合ではないと思う。
ええと、いま8週って言った?単純に言うと、丸々2カ月?
私が出張に行ったのって、たしか4カ月前よね?
面倒だから細かい説明は省くけど、妊娠週数の数え方をよく分かっていない人ですら、「ん?」と立ち止まる計算の合わなさではないか。
彼女は受精や着床にものすごく時間を要する特異体質なの?
という疑念をもっとストレートに「え?計算合わないんだけど?」と言ったら、「それがきっかけで、その…何度か…」と、情けない声で言いやがった。
私の悪いところは、こういうとき、すぐ引いてしまうところかもしれない。
昔からだけど、何かトラブルが発生したとき、それ以上こじれてそれ以上面倒になるのが嫌で、「しゃーない、ここで手打ちにしよう」と、貧乏くじを積極的に引いてしまうのだ。
PTAとか町内会とかの役員決めで、立候補も他薦も出ないような膠着状態のとき、とりあえず「それを打破したい」というだけの理由で手挙げるタイプになりそう。あー、やだやだ。
人の男を寝取って妊娠して、「責任取れ~。死ぬぞ~」と言うような女が、もちろん憎くないわけではないのだが、彼女にも彼女の事情があるだろうとか考えると、妊娠していない私の方が痛手は少ないわなあと考えてしまう。何しろ会ったこともない人だし。
「…分かったよ。あなたの私物は着払いで送るから、もう二度とウチに来ないでね」
彼はきっと、私がもっとゴネると思ったのだろう。「え、それだけ?俺たち、何年付き合ったと…」と、戸惑いがちに言った。
6年付き合っていて、彼は一体私の何を見ていたんだろう。
私は6年前も今も、こういう人間だよ。
「これ以上何言ってほしいの?さようなら」
小学校で教わらなかった?
「悪い人は、人を警戒させずに悪いことをするために、最初はいい人みたいな顔して近づいてきますよ」って。
あ、これは少し違うか。
こんな言葉で小学生に教えを説くのは、変わり者として定評があった、私の小学3・4年生のときの担任の福山先生くらいか。
騙す人は、騙す意図をもって殊更いい顔して近づいてくるし、もしそういう意図がなくても、途中で気が変わったり、状況が変わったりすることはざらにある。
これは人柄とは無関係に、そういうものだと思う。心なんて本人でも制御不能になる場合はあるものだ。
▽▽
ちなみに、私を振ったばかりの男(見た目は誠実そう、とよく言われていた)は、別れ話のときにこう言っていた。
「俺も男なんだから、そういうことだってあるんだよ…」
ちなみに「そういう」には、「私の出張中、高校時代のモトカノと偶然居酒屋で会い、寂しさとムラムラからやっちゃった」が入る。
私も一度や二度の浮気に目くじらは立てないつもりだったけれど、その女に「今、妊娠8週目」と打ち明けられ、「できたら堕胎してほしい」とバカ正直に頼んだら「自殺する」と言われ、「だから結婚することにした」までつくと、男だから~とか言ってる場合ではないと思う。
ええと、いま8週って言った?単純に言うと、丸々2カ月?
私が出張に行ったのって、たしか4カ月前よね?
面倒だから細かい説明は省くけど、妊娠週数の数え方をよく分かっていない人ですら、「ん?」と立ち止まる計算の合わなさではないか。
彼女は受精や着床にものすごく時間を要する特異体質なの?
という疑念をもっとストレートに「え?計算合わないんだけど?」と言ったら、「それがきっかけで、その…何度か…」と、情けない声で言いやがった。
私の悪いところは、こういうとき、すぐ引いてしまうところかもしれない。
昔からだけど、何かトラブルが発生したとき、それ以上こじれてそれ以上面倒になるのが嫌で、「しゃーない、ここで手打ちにしよう」と、貧乏くじを積極的に引いてしまうのだ。
PTAとか町内会とかの役員決めで、立候補も他薦も出ないような膠着状態のとき、とりあえず「それを打破したい」というだけの理由で手挙げるタイプになりそう。あー、やだやだ。
人の男を寝取って妊娠して、「責任取れ~。死ぬぞ~」と言うような女が、もちろん憎くないわけではないのだが、彼女にも彼女の事情があるだろうとか考えると、妊娠していない私の方が痛手は少ないわなあと考えてしまう。何しろ会ったこともない人だし。
「…分かったよ。あなたの私物は着払いで送るから、もう二度とウチに来ないでね」
彼はきっと、私がもっとゴネると思ったのだろう。「え、それだけ?俺たち、何年付き合ったと…」と、戸惑いがちに言った。
6年付き合っていて、彼は一体私の何を見ていたんだろう。
私は6年前も今も、こういう人間だよ。
「これ以上何言ってほしいの?さようなら」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる