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新婚さん

ヒロコの隣人・リナ

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 とある小さなアパートの一室らしきところで、ヒロコという女性が繕いものをしていた。
 年齢は60歳くらい。もともと小柄な体をなおちんまりと縮め、いつもかけている眼鏡は外していた。
 年齢的に、こういう作業のときはシニアグラスがあった方が便利そうだが、もともと近眼だったヒロコは、手元の細かい作業のときは、むしろ眼鏡を外した状態の方がしやすいらしい。

カジュアルなネルシャツの胸元のボタン、厚手の靴下の足裏の、すれてやや薄くなった部分、買い物に使うトートバッグのちょっとしたほつれなど、探せば幾らでも「仕事」はあるのだ。

 毛布を虫干ししようと出したとき、汚れが少し気になったので、クリーニングに出そうか、コインランドリーで洗おうかと考えた。
 作業しながら聞いていたラジオの通販で、ちょうど発熱毛布の掛布団を紹介していたからだ。

 ヒロコが作業を一通り終えた頃、玄関のチャイムが鳴った。
 ドアスコープを覗くと、隣人のリナが立っている。

「あらあら、お隣の…?」
「――ごはんですよ」
「えー、いつもごめんなさいね。今日はなあに?」
「チキン南蛮とグリーンサラダです。お味噌汁はきのこで」
「いただきもののかぼちゃは使わないの?」
「それは――また今度にします」

 リナのキッチンのどこにも、カボチャはなかった。

◇◇◇

「リナさん、お料理上手ね。今日もおいしいわ」
「ありがとうございます」
「私もあなたくらい上手だったらよかったのに…」

 リナはヒロコの顔が微妙に曇ったのを察し、唐突に話題を変えた。

「何か必要なものがあったら買っておきますよ。コンビニで売っていないものだと、明日になりますけど」
「今日はないわ。あ、でもお買い物といえば…」

 ヒロコはラジオショッピングで聞いた、温かい毛布の話をリナにした。

「ああ、1枚買ったらもう1枚サービスみたいなやつですか?」
 リナは内心(この話、何回目だろう…そういう季節だから仕方ないか)と思いつつ、話を合わせた。
「そんなこと言っていたかしら?でも言っていたかもね」
「…私は買ったことないんで、よく分からないんですけど…」

 「それ、欲しいんですか?」とリナがヒロコに尋ねると、「まさか。そんなぜいたくできないわ。彼が一生懸命稼いだお金、無駄にできないもの」と返事をするところまで、いつも同じ流れである。
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