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ほれ薬かもしれない

恋も勉強も

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 次回の授業から、由梨花は啓を「ケイくん」、啓は由梨花を「岡本さん」と呼ぶようになった。
 「ユリカでいいのに」と軽くふくれっ面をされたものの、「だーめ、苗字呼び禁止!」とまで言うタイプではない。啓が「ちょっと照れくさいから…」と断ったら、また「カワイイ」と言われた。

 中学校が違うので、お互いの普段の学校生活の様子が分からないから、付き合い方に少し余所行よそいき感がある生徒が多い中、啓も由梨花も割と自然体と言える接し方をしていた。

 由梨花は麻里奈とはタイプがかなり違うし、そもそも由梨花のようなタイプは啓の学校にはなかなかいない。
 だから啓にしてみると、「どこか線を引いているような」付き合い方こそがなのに対し、由梨花は誰に対しても変わらない、まるで真綿に包まれて駆け寄ってくるかのような、ふんわりした距離の詰め方をしてくる。

 最初はそんな由梨花にあまり興味がなかった啓だったが、親しく話をするようになると、明るい茶色の目や、よく動く桃色の唇が目に入ってきて、「やっぱりキレイな子だな」と改めて感心するようになってきた。
 CMやドラマでしょっちゅう見かける女優に、最初はあまり気に留めなかったものの、徐々に「気になる」「ちょっと好きかも」と思うようになってくる、そんな感覚だった。

◇◇◇

 啓も由梨花も塾から車で10分足らずのところに住んでおり、啓は自転車通学、由梨花は母親の送迎で通っていた。

「じゃ、岡本さん。お先に…」

 塾の建物の前で車を待つ由梨花に、自転車にまたがった啓が声をかけると、由梨花は「ケイくん、待って!」と言いながら啓に駆け寄り、バッグのポケットに何か紙のようなものをねじ入れた。

「おうちに着いてから読んで。気を付けて!」

 「さっさと帰れ」と言わんばかりに手を振った由梨花に気おされるように、啓は「あ、ああ…」と言いながら自宅へと自転車を走らせた。

◇◇◇

『ケイくんのことが好きです。私と付き合ってください』

 家に帰って改めて確認すると、由梨花が渡してきたのは小さめの封筒だった。中には二つ折りにされた便せんが入っており、この文面と連絡先が書かれていた。

 これを「ラブレター」と表現していいものかどうかは分からないが、少なくとも告白のつもりでこの手紙を渡してきたようだ。

 学校(塾だが)きってのアイドル美少女が、自分のことが好きで、付き合ってくれと言う。何と現実味のない出来事だろう。

 (からかわれているのか?それともこういうゲームか?)

 麻里奈のことを気にしている啓にしてみると、「好きな人がいるから」と断る選択肢だってあるだろうが、Sクラスに入って以降、そこそこ由梨花の人となりを見てきた。
 時々、悪い意味で天然というか、癇に障る物言いをすることもあるものの、そんなところさえ魅力だと思わせてしまうところがある。
 本当にかわいい子だし、嫌いではない。
 多分勇気を出して言ってくれたのだろうと思うと、ただ断ってしまうのは申しわけないような気がしてしまう。

 ケイは悩んだ末、「次の授業の日に返事をさせてください」とメッセージを送り、実際次回の下校時に、「俺も岡本さんのこと好き…です。よろしくお願いします」と返事をした。

 2人はその後も変わらず「ケイくん」「岡本さん」と呼び合い、時には休みの日に約束して会ったり、電話やチャットツールで連絡を取り合ったりした。

 由梨花の方が成績が安定しているので、由梨花が啓をサポートする形で勉強に励み、次のクラス編成でも2人ともSクラスに入ることができた。

 通信教育教材の販促漫画のごとく、恋も勉強も絶好調だった。
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