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王様のペペロンチーノ
タクとの再会
しおりを挟む高校の同級生だったタクと偶然街で会ったのは、半年くらい前だ。
彼が私のことを好きだといううわさは聞いたことがあったけれど、「立ち話もなんだし、時間があるなら」と近くのカフェに誘われて、高校時代よりずっと余裕のある態度で「俺、君のことが今でも好きなんだよね」と言われた。
それは告白というよりも、居酒屋で大勢でいろいろ料理をオーダーするとき、「俺、酢の物って結構好きでさ」なんて言うときみたいな調子で。
だから私は気が楽になって、「うれしい」と素直に応え、近況を話したり、連絡先を交換したりできた。
その後、たまに会ってお茶したり、メッセージを交換したりしていたけれど、それだけなので、浮気って意識は全くなかった。
彼には本当に何でも話した。
ハルの態度が時々少しバイオレントなことは盛り気味に話した。その方がお話として盛り上がりそうだしって程度の認識で。
でもタクは、ハルと私の関係をかなり深刻に捉えちゃったみたいだ。
「俺だったら君に、そんな顔させないのにな…」
「え――私、どんな顔してるの?」
「すごく辛そうだよ」
「そう…」
タクも辛そうな顔をしていて、私はその「寄り添ってもらってる感」にほだされ、結局彼と寝た。
浮気しちゃったという罪悪感は半端なかったし、一度きりとはいえハルにバレたらどうしようとも思ったけれど、タクはピロートークで「正直言うと、彼と別れてほしいな…」と、優しく髪をなでながら言った。
私は「少し考えさせて」と言って、その後はメッセージのやりとりだけしている。
会ったら絶対「そういうこと」になりそうだからね。
ハルに不満があっても、完全に嫌いになったわけではないから、その時点では別れる気はほぼなかった。
それでいて、ハルが私に辛く当たることがあると、(そんなだから浮気されるんだよ)と内心毒づいたりした。
◇◇◇
「本当はペペロンチーノが食べたいと言われた」だけなのに、なぜかいつもよりも「あー、駄目だこりゃ」という心境になった。
タクという存在が確定して、気が大きくなっていたのもあるかなあ。
「ペペロンチーノに添えるやつ、ポークのピカタとかどう?」
「ピカタって何だっけ?」
「卵液をつけて焼いたやつだよ」
「おー、うまそう。それ食いたい!」
彼は機嫌が直ったのか、明るい声で喜んだけれど、その笑顔を見ても、つくってあげようという気がまるで起きなかった。
というより、何度かつくったことがあるし、「こういう料理何ていうの?」って聞かれて、そのたび答えていたような気がしないでもない。
そんな気持ちを隠すように、私はせいぜい一生懸命笑顔をつくって言った。
「うん、腕によりをかけちゃう」
【了】
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