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十円玉のおみちびき
そもそものなれそめは
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2人の話を整理すると、ハミちゃんは1年ほど前、当時付き合っていた人に一方的に振られ[ハミちゃん談]、行きつけのスナックのカウンターで水割りのグラスを振り回すように持ったまま、おだを上げていたという[中澤談]。
マスターがかなり困っている様子だったので、見かねた中澤君が彼女の隣に座って話しかけた。
あまり大きくはない店のこと、ハミちゃんの状況も全部丸聞こえだった上に、実はもともとその店の消極的な常連だった中澤君は、ハミちゃんが彼氏と一緒にいるところも何度も目撃していたが、遠慮して声をかけなかっただけらしい。
その後、ベロベロに酔っぱらって前後不覚状態だったハミちゃんを、中澤君が「偶然なんですけど、俺、彼女と同郷で中学も一緒なんで」とマスターに言い、連れ帰った。
マスターは間近で話を聞いていたので、2人が既知の間柄であることを察し、お任せしてくれたのだとか。
実際のところ、飲んで乱れていたハミちゃんに中澤君が話を合わせ、したたか酔っていたハミちゃんの方は、中澤君に調子よく適当に相槌を打っていたという、「奇跡のコラボ会話」だったかもしれないけれどね。
ハミちゃんが目を覚ましたとき、知らない部屋のベッドで寝ていて、もともとのベッドの主である中澤君は、床で毛布をかぶっていた。
「ああ、江藤さん、起きた?気分は大丈夫?」
ハミちゃんは状況が分からず一瞬ひるんだが、スーツのジャケットだけ脱いだ状態で寝ており、男性が床で寝ていたということは、多分「無傷」だったようだとほっとする。
それよりも何よりも、男が自分を迷いなく「江藤」と呼んだことに驚いた。
「あなた――私のことを知ってるの?」
「俺、八中で一緒だった中澤だけど、覚えてない?」
「えっ、中澤君って…卓球部だった?」
「うん、そう。江藤さんは美術部だったよね」
この偶然の出会いというのも大概なんだけど、もっと驚いたのは後日談の方だった。
「守護霊様の遊び、覚えてる?」
「うん、覚えているけど…?」
私は内心、彼の前でその話はまずいのではと思った。
「あれ絶対、誰かが指動かしてるってみんな思ってたよね?」
「まあ、ねえ。どう考えてもいろいろおかしいもの」
「あのとき私、ヒデくんと口利いたこともなかったのに、何で名前が出てきたのかなって不思議だったんだけど、何のことはない、犯人はヒデ君自身だったのよ」
「え、どういうこと?」
実はいつも遊んでいたメンバーの中に中澤君の親戚に当たる子がいて、学校ではほとんど口を利かなかったものの、親戚づきあいの中で、それなりにやりとりはあったという。
そして女子の間で守護霊様の遊びがはやっていることや、遊び仲間にハミちゃんがいることを知った中澤少年は、
「あれって十円玉をそれとなく誘導するやつがいるんだよね?」
と特に考えずに質問したら、
「まあ、ネタばらししちゃうとそういうこと」
と言われた。
聞けば、〇〇が好きな人とか、〇〇と誰が付き合うという質問がド定番だという。
自分のように地味な人間が話題に上がることはないだろうが、気になる「江藤さん」に自分の存在を意識させることはできるかもしれないと考えた中澤少年が、江藤さん絡みでそういう質問が出たら、自分の名前が出るように誘導してくれないかと、その親戚の子に頼んだのだという。
「結構必死だったし、みんなインチキを承知でやっているならいいかって、罪悪感もなかったよ」
と中澤君は言った。
確かにその通りなんだけど、顔に似合わず大胆なことをするなあと思った。
私の感覚だと、直接告白する方がずっと気が楽だろうにと思ったからだ。
「でもね、私がヒデ君を好きになったのは、そのせいじゃないんだよね。
何しろ中学校を卒業した頃は、今のこの状況を想像もしていなかったんだから」
「まあ、言われてみると。それはそうだよね」
中澤君はハミちゃんに正式に「結婚を前提として」交際を申し込んだとき、「ただ、もしこれからする話を聞いて、こいつは無理だと思ったら断ってくれていい」と付け加え、中学時代のからくりを打ち明けてくれたのだそうだ。
「黙っていれば分からないのに、あえて言ってくれたのがうれしくて…」
と、ハミちゃんは少し顔を紅潮させて下を向いた。
「あの店で初めて彼女を見かけたときとか、彼氏と別れて泣いているのを目の当たりにしたとき、これこそが運命だったんだって思って…なんかストーカーじみててキモいかもしれないけど」
「そんなことないよお、ヒデ君(はあと)。そういうバカ正直なところも大好き」
「俺もハミちゃんの昔から変わらない笑顔のとりこだよ(はあと×2)」
あー、もう。目の前でいちゃいちゃし始めちゃったよ、このバカップルは。
マスターがかなり困っている様子だったので、見かねた中澤君が彼女の隣に座って話しかけた。
あまり大きくはない店のこと、ハミちゃんの状況も全部丸聞こえだった上に、実はもともとその店の消極的な常連だった中澤君は、ハミちゃんが彼氏と一緒にいるところも何度も目撃していたが、遠慮して声をかけなかっただけらしい。
その後、ベロベロに酔っぱらって前後不覚状態だったハミちゃんを、中澤君が「偶然なんですけど、俺、彼女と同郷で中学も一緒なんで」とマスターに言い、連れ帰った。
マスターは間近で話を聞いていたので、2人が既知の間柄であることを察し、お任せしてくれたのだとか。
実際のところ、飲んで乱れていたハミちゃんに中澤君が話を合わせ、したたか酔っていたハミちゃんの方は、中澤君に調子よく適当に相槌を打っていたという、「奇跡のコラボ会話」だったかもしれないけれどね。
ハミちゃんが目を覚ましたとき、知らない部屋のベッドで寝ていて、もともとのベッドの主である中澤君は、床で毛布をかぶっていた。
「ああ、江藤さん、起きた?気分は大丈夫?」
ハミちゃんは状況が分からず一瞬ひるんだが、スーツのジャケットだけ脱いだ状態で寝ており、男性が床で寝ていたということは、多分「無傷」だったようだとほっとする。
それよりも何よりも、男が自分を迷いなく「江藤」と呼んだことに驚いた。
「あなた――私のことを知ってるの?」
「俺、八中で一緒だった中澤だけど、覚えてない?」
「えっ、中澤君って…卓球部だった?」
「うん、そう。江藤さんは美術部だったよね」
この偶然の出会いというのも大概なんだけど、もっと驚いたのは後日談の方だった。
「守護霊様の遊び、覚えてる?」
「うん、覚えているけど…?」
私は内心、彼の前でその話はまずいのではと思った。
「あれ絶対、誰かが指動かしてるってみんな思ってたよね?」
「まあ、ねえ。どう考えてもいろいろおかしいもの」
「あのとき私、ヒデくんと口利いたこともなかったのに、何で名前が出てきたのかなって不思議だったんだけど、何のことはない、犯人はヒデ君自身だったのよ」
「え、どういうこと?」
実はいつも遊んでいたメンバーの中に中澤君の親戚に当たる子がいて、学校ではほとんど口を利かなかったものの、親戚づきあいの中で、それなりにやりとりはあったという。
そして女子の間で守護霊様の遊びがはやっていることや、遊び仲間にハミちゃんがいることを知った中澤少年は、
「あれって十円玉をそれとなく誘導するやつがいるんだよね?」
と特に考えずに質問したら、
「まあ、ネタばらししちゃうとそういうこと」
と言われた。
聞けば、〇〇が好きな人とか、〇〇と誰が付き合うという質問がド定番だという。
自分のように地味な人間が話題に上がることはないだろうが、気になる「江藤さん」に自分の存在を意識させることはできるかもしれないと考えた中澤少年が、江藤さん絡みでそういう質問が出たら、自分の名前が出るように誘導してくれないかと、その親戚の子に頼んだのだという。
「結構必死だったし、みんなインチキを承知でやっているならいいかって、罪悪感もなかったよ」
と中澤君は言った。
確かにその通りなんだけど、顔に似合わず大胆なことをするなあと思った。
私の感覚だと、直接告白する方がずっと気が楽だろうにと思ったからだ。
「でもね、私がヒデ君を好きになったのは、そのせいじゃないんだよね。
何しろ中学校を卒業した頃は、今のこの状況を想像もしていなかったんだから」
「まあ、言われてみると。それはそうだよね」
中澤君はハミちゃんに正式に「結婚を前提として」交際を申し込んだとき、「ただ、もしこれからする話を聞いて、こいつは無理だと思ったら断ってくれていい」と付け加え、中学時代のからくりを打ち明けてくれたのだそうだ。
「黙っていれば分からないのに、あえて言ってくれたのがうれしくて…」
と、ハミちゃんは少し顔を紅潮させて下を向いた。
「あの店で初めて彼女を見かけたときとか、彼氏と別れて泣いているのを目の当たりにしたとき、これこそが運命だったんだって思って…なんかストーカーじみててキモいかもしれないけど」
「そんなことないよお、ヒデ君(はあと)。そういうバカ正直なところも大好き」
「俺もハミちゃんの昔から変わらない笑顔のとりこだよ(はあと×2)」
あー、もう。目の前でいちゃいちゃし始めちゃったよ、このバカップルは。
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