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ぼさぼさ頭と黒い顔
しおりを挟むどこぞのドラマに登場する外科医じゃあるまいし、失敗しない人間なんていない。
失敗しても認めない人間はいるかもしれないけれど、それはともかく。
失敗という言葉を使うには重い、例えば衣類に糸くずがついていたり、出先で小さな忘れ物に気づいたり、漢字の読み方や言葉遣いを間違ったり程度のうっかりや失敗は、誰にでもある。恥ずかしながら、私たちは家族そろって、そんなことはしょっちゅうだ。
夫や娘にそういうことが起きたとき、私は軽く注意したり、間違いを訂正したりする。
赤の他人の場合、状況にもよるけれど、指摘することで恥をかかせる可能性もあるので、スルーすることも多い。
娘も私たち二人に対してほぼ同じような対応で、友人知人の場合、よほど親しくない限りはやはりスルーのようだ。
しかし夫は、私や娘がお茶をちょっと洋服に垂らしてしまった程度のことでも、「わー、大変大変!」やたらと大げさに反応し、くどくど「次からはちゃんとしないと…」「大体君はいつもいつも…」と、小言を続ける。
そんな夫を見ていると、やたらとせっかちで気もみ症のところが苦手だった夫方の祖母を思い出し、懐かしく――はならない。ただただ苦々しい。
締めはいつも「こんなこと注意してくれるのは、家族(身内)だからだからね?赤の他人ならこんなに親身にならないよ?」だ。
親身という言葉を使われ、「まあ、そうねえ…」と一応納得はするものの、「苦い薬は体にいいとかっていうでしょ?耳が痛いってことは図星ってことだし(以下エンドレス)」まで話が広がると、さすがに「そこまで言われるほどのことをしたか?私」と疑問が浮かぶ。
こんなときの私は、「良薬口に苦し」って言い方の方が据わりがいいと思うけどなーと思いつつ、面倒なので指摘もしない。
▼▼
昔『頭の体操』みたいな本で読んだ二つのクイズが頭に浮かんだ。問題内容は全く違うのだが、答えに至る発想が全く同じなのだ。
[その1]
ある村に2人の理容師がいた。1人は頭ぼさぼさ、もう1人はきちっと整った頭をしている。どちらに散髪を頼むか?
(これは「床屋のパラドックス」の応用みたいな話?)
[その2]
蒸気機関車に向い合せで乗っていた2人の女性。1人だけ窓から入ってきたススで顔が汚れてしまったが、顔を洗いにいったのは、顔が汚れていない方が女性だった。その理由は。
その1の正解は「頭ぼさぼさの理容師」が正解。これは、ぼさぼさの方がきちんと整った方の散髪をしているという推理から。
その2は「顔が汚れた女性は、汚れていない女性を見て、自分も汚れていないと勘違いし、汚れていない女性は、汚れた女性を見て、自分の顔も汚れていると思ったから」という答え。要するにお互いがお互いの鏡になった格好である。
▼▼
夫は私のちょっとした失点をためらいなく長々と注意するが、私は(あまり)しない。
もともとは私がどちらかというと大雑把な性格で、彼が小さいことを気にしがちという性質に負うところが大きいのだが、それなり年月の結婚生活を経て、ある意味すっかり逆転したように思う。
私は彼のそういうくどくどしいところが必要以上に気になり、夫は私を「神経質という名の無神経」のせいでくどくど注意する一方で、自分の方は「使用していない部屋の電気」「洗濯物ポケットのお邪魔虫」「ごみの日カレンダー」的なものに全く注意を払わなくなっていった。
私は彼を無神経と思い、彼は私をズボラと思う。そして自分自身のことは「うわ、私、細かいことを気にし過ぎ…」となる。
結婚2年目で生まれた娘が高校生になるほどの長い間、何とかしようと全く試みなかったわけではない(夫側のことは知らない)。
しかし結局、不発に終わったのは、注意しては反論され、スネられ…としているうちに、「もうええわ」となっていったし、それがいつ頃からのことか、もう思い出せないほどだ。
この状況で私のディスコミュニケーションぶりを責める人がいるならば、よほどの妙案を持っているのだろう。ぜひとも打開策をご教示いただきたいところだ。
▼▼
二人の人間がともに生活している。
二人ともお互いに何らかの不満を抱え、一人は「自分は我慢している」と言い、もう一人はただ黙っている。
さて、本当に我慢しているのはどちらでしょ?
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