上 下
1 / 4

山羽女子高校普通科1年6組

しおりを挟む
 さて、高校に入学してまだ3日程度だけど、社交性の有無はそれだけあれば明るみになる。

 我が市立小坂田おさかだ中学校から、この県立山羽やまは女子高校普通科(全6クラス)に入学した人は15人いたから、平均すれば1クラスに2.5人ずつは割り振られるはずなのだが、15人のうち美術選択クラス(5・6組)に1人ずつ、書道選択クラス(1・2組)は1組に1人だけで、残りの12人が音楽選択クラス(3・4組)に集中してしまったらしい。
 芸術の選択科目でクラス分けするのがおかしいとか普通じゃないという意見もあるだろうけど、変でも何でも、それが山羽ウチの流儀なんだから仕方ない。

 大体私、本当は音楽を第1希望、美術を第2希望にしたら美術にされただけなんだよね。
 いろいろ考えると、書道→かったるい、美術→金がかかるという理由で避ける人が多いので、音楽が一番人気だった結果の調整だったようだ。
 ということは、うちの学校には「音楽」を希望した人が私を含めて最低13人いることになるけど、そのうちの12人の希望は通り、私だけ“落選”ってのも解せない。

 入試の後に自己採点したら、もともと苦手だった数学の点数が壊滅的だったため、入試成績に少なからず影響したと思う。ひょっとしてそれが響いた…とか?

 後で聞いたら、全員が「そう」だったのかは分からないけれど、音楽クラスに入った人は、第1希望も第2希望も「音楽」って書いた人が多かったんだそうだ。要するにゴネ得じゃん。感じ悪いなあ。

 で、クラスに同じ中学出身の子が1人もいない私は、入学初日にして「一人弁当」を覚悟した。
 いや、本当いうと、強がりとかじゃなくて、そういうのは別に平気なのよ。

 ただね、世の中、消極的な性格だったり、ハツラツ感がない人を「根暗ねくら」とかいってバカにする風潮があるでしょ。
 ちょっと前に見たテレビで、お笑い芸人の九十九つくもはじめさんが、「暗い人の特徴」として、「公園でひとり弁当」みたいなのをネタにしてたの。で、結構ウケてた。

 つまり「根暗」をバカにする人って、ひとりでお弁当食べてる人を、それだけでバカにしていいと思っているってことじゃない?そんな空気の中でひとりでお弁当というのが「思うツボ」っぽくて嫌だなと思うわけよ。
 まあ九十九さん自身が明るい雰囲気の人ではないから、多分自虐というやつなんだろうけど、それをウリにしているわけではない女子高生にとっては、辛い葛藤なんだよね…。

+++

 なーんてことをしち面倒くさく考えたわけではないけれど、私・1年6組出席番号14番、景山かげやまミキは、後ろの席の15番・工藤くどうヨリコちゃんに、「ねえ、一緒にお弁当食べない?」と思い切って声をかけた。

 こう言ってはなんだけど、工藤さんは私よりもっと内向的な性格に見える。多分、和風の薄い顔立ちのせいだろう。
 地黒でくどい顔で「インド人」なんてあだ名がついたこともある私とは正反対の容姿だ(そんな顔なのに暗い性格でごめんな…)。

 工藤さんはちょっと驚いたけれど、うれしそうに「うん!」って言ってくれた。思い切ってみてよかったよ。

 工藤さんはもともと美術選択で、第2希望が「書道」だったらしい。
 その組み合わせは全く考えたことがなかったんだけど、そういう人もいたんだね、それも自分の後ろの席に。

 私は最初は母親のつくったお弁当を食べていて、そのうち「おかずは用意するから自分で詰めな」と言われ、さらに「ご飯と残り物適当に入れれば大丈夫でしょ。冷凍もあるし」になり、GWに入る前に「300円あれば、パンと牛乳買えるでしょ」になった。
 工藤さんはいつも彩りのきれいなお弁当で、時々デザートのフルーツを分けてくれたりした。

 だから私が「購買部に注文したお気に入りのデニッシュ(55円)とカレーパン(65円)と55円の牛乳」なんてのを食べ、工藤さんが「上品にお箸を動かして」の図が定着した頃、工藤さんが私にこんなことを言った。

「4月30日、何か予定ある?御家族でお出かけとか」

 あの雑なファミリーに「」なんて接頭語をつけられてしまって面はゆい限りだけど、私は普通に「別にないよ」と答えた。
 翌日4月29日は「天皇誕生日」でお休みで、そのまた翌日30日は振替休日だ。

「よかった。じゃ、もしよかったら、私たちのサークルのイベントに来ない?」

 さーくるの、いべんと、とな?

 時は1984年、バブルはいまだしってところだったけれど、高いブランドもののバッグを持ったり、DCブランドに身を包んだりという、妙に金回りのよい女子大生のお姉さまもぼちぼちあらわれていた頃だ。

(ここで関係あるみたいに持ち出すのもあれだけど、「愛人バンク」なんてのが社会現象として取り上げられていたころでもある)

 そういうきらびやかな女子大生が言うならまだしも、目の前の、上品さがあだになって老けて見えるってだけで、正真正銘、地味系女子高生の工藤さんの口から「サークル」だの、「イベント」だの。

「サークル――ってどんな?」
「ええとね、小説とか、イラストとか、漫画とか描いて、同人誌っていうのをつくっているの。お友達にも景山さんを紹介したいし、どうかな?」
「それ、お金とかは…入場料みたいなのは?」
「あ、そういうのは要らない。物販もあるから買うのは自由だけど」
「そうなんだ…」

 工藤さんの「友達」というものに興味を惹かれ、私は「行く」と返事をした。
 4月30日、市の勤労者福祉会館の中ホールに「10時以降ならいつでも入れる」とのこと。
 別におしゃれな場所じゃないし、直通バス1本で行ける場所だし、気楽に行けそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中学生作家

あおみなみ
青春
“あの子”の一番の理解者は、僕だから 小説を書くのが好きなヒナ。ヒナ「だけ」が大好きなオミ。 オミはヒナを喜ばせたい、幸せにしたい一心だった。

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良
青春
とある県の平凡な県立高校「東総倉高等学校」に通う、名前以外は平凡な少年が、個性的な人間たちに翻弄され、振り回され続ける学園コメディ! 彼は、ごくごく平凡な男子高校生である。…名前を除けば。 田中天狼と書いてタナカシリウス、それが彼の名前。 この奇妙な名前のせいで、今までの人生に余計な気苦労が耐えなかった彼は、せめて、高校生になったら、平凡で平和な日常を送りたいとするのだが、高校入学後の初動に失敗。 ぼっちとなってしまった彼に話しかけてきたのは、春夏秋冬水と名乗る、一人の少女だった。 そして彼らは、二年生の矢的杏途龍、そして撫子という変人……もとい、独特な先輩達に、珍しい名を持つ者たちが集まる「奇名部」という部活への起ち上げを誘われるのだった……。 ・表紙画像は、紅蓮のたまり醤油様から頂きました! ・小説家になろうにて投稿したものと同じです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...