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第23章 松崎の帰郷

家族

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 松崎敏夫は森ノ宮もりのみやの実家に帰っていた。

 新聞配達を辞め、家に帰って片山か冨久澤ふくざわ(北部にある県庁所在地)の予備校に入り直したいと親に相談したのが9月。
 途中から入れてもらえるところを何とか探すか、宅浪でやり直すか、場合によったら2浪も覚悟せざるを得ない。

 さすがに父親にはひどく説教をされたが、「自分が甘かった」「反省している」「仕事との両立がきつかった。今度は勉強に集中できる」と、下手したでに出て懇願した。
 というよりも、実力行使といったら妙だが、特に手続をしないまま、体と荷物だけ家に帰ってきた格好で、違約金などの後始末は親が骨を折った。

 どんなにバカで詰めの甘い息子でも、親としての責任も情もある。
 特にもともと敏夫に甘かった母親は、「せっかくやる気を出しているのだから、これ以上責めるのはよくない」と夫[父]をなだめ、「兄貴かっこわるっ」と辛らつに言う娘[妹]をたしなめるのだった。

 すると、1カ月もせず何となくもとの家族関係を取り戻した。バカな息子だと呆れ、厳しいことを言う父親だからこそ、「手元に置いてバカなことをしないように見ている」というのも一案だと考え直した。

◇◇◇

「ねえ父さん、ワープロ貸して」
「ん?何に使うんだ?」
「ちょっとね。俺字きたねえから、ノートの清書兼ねてタイピングの練習」
「そうか――なら、俺も新製品が欲しいと思っていたところだ。今使っているのを譲ろう」
「お、やった。サンキュ」

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