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第20章 ガールズトーク

俊也の不機嫌

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 一方、さよりは眠れそうもない。
 俊也に電話したい気持ちもあったが、晴海の家の電話を使うのはためらいがあったし、深夜なので、外の公衆電話を使うと言っても、伯母たちに止められるだろう。

 「そういえば、どうして私は「あの後」俊也さんに電話できていないのだろうか?」と、ふと考えた。

 あの後、俊也から手紙をもらったので返事を書いたが、電話はかけていない。なぜならば、電話すれば「会おう」という約束につながる可能性は高い。会えば当然、「そういう」ことになるだろう。

 自分は俊也さんに実は会いたくないのでは…と考えれば、答えは「ノー」と導き出される。

 会いたいけど、セックスはできればしたくない。
 初めてだったさよりには、あの行為は苦痛の方が大き過ぎた。

 かといって、「しにくい」日にわざわざ会うのもいかがなものか。
 さよりの生理は少し前に、俊也との関係を持つ前に始まり、きっかり1週間で終わった。
 さよりには、「しない」口実のために生理を偽装するという発想がなかったし、“期間中”でもお構いなしに迫ってくる男もいる――と、何かで読んだことがあった。

◇◇◇

 晴海との女同士の気楽な外出を楽しんだ後、寮に帰ると、「アベさんという男性から電話がありました」という伝言メモが部屋のドアに挟まっていた。日付は昨日だったようだ。

 さすがに無視するわけにはいかず、近くの公衆電話に走って電話をすると、
運よく俊也はいたものの、かなり機嫌が悪かった。

『お前、昨日外泊って、どこに行っていたんだ?』
「あの…晴海ちゃんちに。伯父さんの誕生日の食事会に招かれていて」
『なんだ、水野の家か。まあいいや。でも次からは、週末の予定ぐらい、ちゃんと俺にしてからにしろよな」

 さよりは俊也と週末に何の約束もしていないし、伯母からのお誘いの後、俊也から週末スケジュールの確認があったわけでもない。それでも責めるような口調で言われ、さよりはこう返すしかなかった。

「ごめんなさい、俊也さん」
『さよりは素直でかわいいな。分かってくれればいいよ』

 俊也の声は、顔や雰囲気から想像するよりも低音で野太い。声域でいえばバリトンという感じだ。
 その声で「君」「さよりちゃん」と呼ばれ、優しい口調で話されるのが、さよりは好きだった。
 切ったばかりの電話では、「お前」と言われ、呼び捨てにされ、口の利き方も少し乱暴な気がした。

 さよりは、俊也のことが好きだという気持ちに変わりなかったが、その変化にときめくことはなく、「怒らせちゃった…次からは気を付けなきゃ」という気持ちさえ芽生えてしまっていた。
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