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第20章 ガールズトーク
晴海の“元カレ”話
しおりを挟む「晴海ちゃんにカレシのことをこう聞かれたらこう答える 傾向と対策」を風呂の中で練ったさよりだったが、不要な心配だった。
何しろ晴海は、できたての彼氏(バイト先で知り合ったらしい)とののろけ話がしたくてしようがない、いわば蜜月期のようで、さよりは喜んで聞き役に徹することができるし、実際、他愛もないネタを生き生きと話す晴海には、見ている方まで表情が緩む。
最初のうちは、ローテーブルを囲んでクッションに腰を下ろしていたが、「寝落ちしてもいいように、横になろうか?」という晴海の提案で、ベッドに入った。
セミダブルのベッドで、小柄な晴海と細身のさよりは意外とゆったり眠れた。
「優しそうなカレシでうらやましいな」
「ちょっとコロッとしてて、見た目はあんまかっこよくないんだけど、なんかクマちゃんみたいにかわいくて」
晴海はそう言いつつ、足元に転がっていたぬいぐるみを手に取って、ぎゅっと顔を押し付けたが、その後、こう付け加えた。
「何しろ前のがひどかったからってのもあるけどね…」
「前の?」
「うん。私そいつと別れてから、しばらく男はいいやって思っちゃって」
「へえ…そんなひどい人だったの?」
「ひどいっていうか…ま、いろいろね」
さよりには頭に浮かぶ人物像があったが、怖くて聞けない。
「新年会でずっと一緒にいた人?」と一言聞けば解決なのだが、そもそもあまり話したくないように見えるし、さよりとしてもあまり聞きたくなかった。
◇◇◇
「やっぱさよりちゃんには話しちゃおうかなあ…」
「え?」
「ソレと付き合ってたのは2、3カ月だから、パパはもちろん、ママも知らないんだよね」
「そうなんだ…」
さよりは実家暮らしの頃、彼氏というつもりで付き合っていた男の子はいなかったのでよく分からないが、やはりお付き合いしている男性というのは、両親に紹介するものなのだろうか。
「同じ大学で、顔もいいし、頭の回転が速くて話してて面白かったけど、始終ほかの女の影が付きまとっててさ」
「そういう人は――モテるんだろうね、きっと」
「そうそう。下手すると、2人きりのときに女から電話かかってくるんだよね。「ただの友達だから」って、私の前でも長話平気でするし」
「うわ、キツいね」
晴海がそう明言したわけでもないのに、そんな男女の2人のやりとりが、晴海×俊也で脳内再現される。
自分は俊也の部屋にはまだ一度しか行ったことがないが、滞在時間が短かったので、「そういう」場面に出くわさなかっただけかもしれないし、初めての夜はホテルだったので邪魔も入らなかった。
「具体的に浮気されたとかじゃないんだけど、何か気が休まらなくて、ついついケンカになって、「そんなに俺が信じられないのか!」って言われて別れちゃった。信じてほしいなら、ほかの女と長話すんなっての、ねえ?」
「うんうん」
あの後、何となく俊也と会えずにいるが、これから付き合いが一層深まれば、「明日は我が身」な話かもしれない。
もちろん、晴海の元カレが俊也とは全く別人の可能性だってある。
晴海や俊也が通っている大学はかなり大規模な学校だし、そもそも東京には「顔がよくて頭の回転が速くて」なんて男、それこそ履いて捨てるほどいるのだろう。
「さよりちゃんはしっかりしてるから大丈夫だろうけど、そういう男には気を付けなよ――って、カレシいるし大丈夫か」
「だから!まだ付き合ってるわけじゃなくて…」
「ま、いいや…何か話したらすっきりしちゃった。明日は朝ごはん食べてからお買い物とか行こう…ね…」
晴海は一方的にそう言うと、すっと寝てしまった。
「おやすみ、晴海ちゃん」
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