上 下
51 / 88
第18章 勘違いは誰のせい

勘助(※)

しおりを挟む

※勘違い男のこと。厳密には00年代に入ってからのネットスラングのため、この作品の時代にはなかった言葉ですが、しっくりくるネーミングのためタイトルにしました。

◇◇◇

 秋本和美からさよりのもとに連絡が来た。

 松崎とややこしくなった発端をつくった人物ではあるが、高校時代仲が最もよかったことは間違いないし、久々のコンタクトは素直にうれしいとさよりは思った。
 和美は夏の間、親戚の家の近くの教習所に通っていたが、わずかに盆の時期に、同窓会のために帰省しただけらしい。

「同窓会って中学校の?」
『そうそう。高校卒業して最初のお盆休みだからね』

 元同級生たちの状況が一番変わった年の夏ということで、理由をつけて集まりたいタイプの人が幹事を買って出てセッティングしたという。

『家業の仕出し屋さんの手伝いしてる子なんだけど、公民館押さえて、料理とかは自分のトコをうまいことねじ込んで。あと酒屋さんの子もいるし、記念写真とかも、親戚に写真屋さんのいる子がいるし』
「そっか。そういうツテで全部そろっちゃうんだね」
『結構おいしかったし、会費も安くて助かっちゃった』

 もともとが話しやすい和美相手ということもあり、寮の電話だということも忘れ、つい長くなってしまう。 

『地元に残った子も結構いるんだけど、やっぱり東京とかSとかに出た人が多いね』
 Sというのは、隣県の県庁所在地で、さよりたちの出身エリアでは最も大きな街だ。
「そうなるよね。うちの中学校も、全部把握してるわけじゃないけど、そんな感じだと思う」
『でさ…東京組の1人で――』

 さよりは和美が言葉を濁すように切り出したので、言いたいことをすぐくみ取った。

「…松崎君?」
『あ、やっぱりさよりは勘がいいね。そう、松崎。気になること言ってたから』
「気になること?」
 当然、さよりは嫌な予感しかしない(というよりも、大方の予想はつく)
『それがさ…』

「あ、和美。近いうち時間取れる?長くなるとアレだから、久しぶりに会って話したいな」
『いいね。私は明日でも大丈夫だよ』
「そう?じゃ、待ち合わせはどこがいいかな?」
『私から行くよ。H台駅でいいんだよね?』
「え?悪いよ」
『あのあたり、雑誌に載っているようなオシャレな店とか多いから、行ってみたかったし、ついでだよ』
「そう?じゃ、お言葉に甘えて」

 さよりが不慣れでも迷わなそうな場所を和美に指定し、通話終了。
 やはり久々に和美と会えるのは、純粋にうれしい。
 それに、和美が松崎の「カノジョ」云々という話を持ち出したら、こちらは俊也のことを話せばいい。

◇◇◇

 和美とは高校を卒業以来、半年近く会っていなかったが、いまだ「高校時代の延長」のようなスタイルのさよりと違い、髪を伸ばし、かなり大人びた印象になっていた。ヘアスタイルも、その頃はやっていた「ワンレングス」というタイプで、独特の分け目になっていた。長さも肩より下のようだ。

「ひゃー。さよりは変わんないね」
「和美は大人っぽくなったね。ワンレンにしてるんだ」
「そー。この間帰省したとき、髪の毛前に垂らして、親戚の子『お化けだぞー』って脅かしたら、本気で泣かれた。失礼しちゃうよね」
「そりゃびっくりするでしょ」

 2人はアイスティーとスフレチーズケーキを注文した。
 少し前に俊也の家に持ち帰ったケーキを買った店で、イートインに空きがあったのだ。

「ん。このケーキおいしー」
「ガトーショコラもいけるよ。ここはチョコレート系は全般的におすすめだって」
「よく来るの?」
「あ――カレが甘党だから…」
「カレって松崎?」
「違うよ!というか、やっぱりそういう話になっていたんだね」
「違うの?まあ確かに違和感はあったんだけど」

 和美に「松崎が言っていたこと」を尋ねてみると、「確かにそのとおりだが、それは違う」と思う点が多々あった。
 殊に、「ここに連れていったとき、彼女さよりはどんな様子だった」「こういう反応だった」という点が、さより自身の認識からはかけ離れたものだったのだ。

 例えば野球を見たとき、居眠りしてしまったことに対しては、「すごく楽しみにしていたから、興奮して前日眠れなかったのかもしれない。途中で居眠りしちゃった姿がかわいかった」と変換されていた。
 誕生日のプレゼントにしても、「遠慮深いから最初は断られたけど、寮の先輩が協力してくれたので渡せた。「すてきな曲ね」とうっとりしていたので、アレにしてよかった」ということになっている。

「え、違う違う。野球に行ったのもプレゼントを受け取ったのも本当だけど」
「だよね。何かさよりのキャラクター的におかしいなと思ったんだけど、松崎といるときはなのかもと思って聞いてた」
「というか、松崎君、私と付き合ってるって言ったの?」
「うん、そう言ってた」
「ちなみにそれって何日のこと?」
「先月の中ごろで――何日だったかな」
 和美はそう言いながら手帳を確認し、日付を特定した。
 さよりが俊也と片山で会っていた前日だった。
「なるほど…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

(完結)戦死したはずの愛しい婚約者が妻子を連れて戻って来ました。

青空一夏
恋愛
私は侯爵家の嫡男と婚約していた。でもこれは私が望んだことではなく、彼の方からの猛アタックだった。それでも私は彼と一緒にいるうちに彼を深く愛するようになった。 彼は戦地に赴きそこで戦死の通知が届き・・・・・・ これは死んだはずの婚約者が妻子を連れて戻って来たというお話。記憶喪失もの。ざまぁ、異世界中世ヨーロッパ風、ところどころ現代的表現ありのゆるふわ設定物語です。 おそらく5話程度のショートショートになる予定です。→すみません、短編に変更。5話で終われなさそうです。

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

処理中です...