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第15章 チャンス再来

「君が欲しい」

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 せめて食器を洗うと申し出たさよりを、俊也は止めなかった。
 大した汚れていない皿とフォーク、そして砂糖の入っていない紅茶の容器だから、大きな負担ではないというのもあったが、「台所に立つ女の子の後ろ姿っていいね」と俊也は言った。

「そんな…食器洗ってるだけですよ…」
 さよりが恥ずかしがって、若干身を縮めながら言った。
 俊也はそこですかさず後ろから抱きしめて、髪の香りをかいだ。

「これが――さよりちゃんの髪の香りだね…」
「あ…」
「君らしい、かわいらしいにおいだけど――次はアールグレイ味のキスが欲しいな」
 俊也はそう言うと、さよりの食器洗いの手を止めさせ、ぐっと胸元にしまい込むように抱きしめた。

「好きだよ――君が欲しい…」
「俊也さん…」
 そこで最初は軽く、次第に深いキスをされ、さよりはのぼせるような感覚を味わった。
 自分の口中に俊也の下が入り、歯をなぞるようにさっと動いた。
 さよりにとっては、キス自体が初めての経験だった。

◇◇◇

 キスの体勢のまま、ベッドまで誘導され、ぐっと押し付けられた。
 俊也が自分の顔の両脇に手をついて、自分をじっと見る。
 恥ずかしさに顔ごと横を向くと、あごを軽くつかまれ、「ちゃんと顔を見せて」と、強引に位置を固定された。

「さよりちゃんはいつも本当にかわいいけど、こうしているときの表情かおは、また格別だね」

 俊也は本心から言った。
 正直言えば、「そのとき」の女性の表情に、今までそこまで関心を持ったことはない。乱暴に言えば「ヤれる」としか考えていなかった。
 しかし、目の前の少女のあまりにもうぶな反応――恥ずかしそうな、少し怯えているような眼差しは、征服欲を大いにかき立てた。絶対この子を自分のものにしたい、そして近くに留めておきたいという気持ちだ。

 あの松崎という男が彼氏気取りだった気持ちも分かる。
 もともと思い込みも激しいのだろうが、彼女が自分の射程内にいると勘違いしてしまったら、どんな男でもそんなふうになるのではないか、と。

◇◇◇

 しかし、そんな俊也の「熱い思い」は、さよりには正しく伝わらなかった。
 というよりも、ただひたすら「恐怖」として受け取られただけだった。
 少し大げさに表現すると、支配、束縛、拘束、制服、侵略といった禍々しい言葉たちが、固まりになってさよりの上に降ってきた。

 俊也は自分よりちょっと大人で、ちょっと強引だけど優しくて、「大好きな男性」である。だからそういう関係になってもいい――と、さよりが思っていたのはウソではない。
 しかし、自分をぐっと鋭い視線で見据えるこの男が今、「本当は」何を考えているのかが全く読めない。
 よくないことが起こるような予感がして、冷や汗が出た。

「あ、の、わたし…」
「ん?」
「ごめんなさい。今日はその…帰ります!」
「え、ちょっと!」

 さよりは俊也の体の下をくぐるようにすり抜け、バッグを持って、サンダルのバックルも止めずに外に出た。
 ドアを開けたとき、鍵を開けて部屋に入るところだった隣室の人間と目が合い、あいまいに会釈し、向こうもそれに倣った。
 まだしっかりと服を着たままだったので、「着衣の乱れ」はないが、もしも中途半端に服を脱いだ状態だったら、絶対に誤解されるようなシチュエーションだったろう。

 俊也はまたもさよりを追いかけようとはしなかった。

 判断の遅れから、彼女がドアを出るのを許してしまったし、やはりドアから顔を出したところで隣室の人間と顔を合わせてしまったので、取り乱したところを見られるのが嫌だったのだ。
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