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第15章 チャンス再来

甘党の会話

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 ガトーショコラとスフレチーズケーキが皿に1個ずつ置かれ、小さなフォークが添えられた。
 どの商品も小ぶりだったので、俊也の提案で、「好きなものを二つずつ言おう」と言ったら、見事にかぶってしまった。
 ばらばらに四つ買って半分ずつシェアする予定だったが、「俺たち趣味が合うみたいだね」と、手にこぶしを添えて笑う俊也の顔を見て、さよりが「あ、じゃ、私はガトーフレーズと…」と言い直しかけているところを、俊也が「本当に食べたいものを買おう」と制した。

「ん、やっぱりここのガトーショコラはうまい」
「スフレチーズもおいしいですよ。
 表面のジャム?も甘酸っぱくて大好きです」
「アプリコットだっけ?そういうのに使うの」
「だと思います」
 甘党2人がケーキをつついているときの会話というのは、平和そのものだ。
 そこにはお互いの緊張も下心も浮き出ることはない。

◇◇◇

 さりげなくかけられたBGMは、俊也が好きだというアメリカのハードロックバンドのものだが、日本でもかなりヒットした曲なので、さよりも知っていた。
 さより自身は日本の軽めのポップスが好きで、好きなアーティストを聞かれ、2、3組のアーティストやバンドの名前を挙げると、
「よかった。俺、音楽の趣味が合う女の子って苦手なんだよね」
 と返され、何も考えずに言った自分の答えが「正解」だったと軽くほっとした。

「音楽の趣味が合う女の子って苦手」
 何気ないが、さまざまなものが邪推できるフレーズでもある。

 不特定多数の女性と、そんな話題で話しているのだろうか。
 しかし、これは社交性の高い大学生の男としては、別におかしくはないので、そうそう突っ込むところでもない。ただし、もしサンプル1、「たまたま嫌いな女が自分と同じ趣味だった」ことを指しているなら、単に視野が狭いことにもなる。

 趣味嗜好はその人を作る要素の一つだ。だからこういうのを好む人とは合わない、これが嫌いなやつとは話ができないなどと、少し意固地にこだわる者もいる。ちょっとしたシャレや誇張で言うこともあるだろうが、本気で口に出しているなら、目の前にいる人間の趣味嗜好より、「そういうこだわりを口にする自分が好きな人間」であることを尊重していると判断されても仕方ない。

 相手に夢中だと、こういう些細なひっかかりは生じない。
 ただし、いざ気持ちが冷めたときに、こんな一言がふと思い出されることもある。
 さよりはこの時点では、「このバンド好き、とか話合わせなくてよかった…」とだけ考えた。
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