37 / 88
第14章 仕切り直し
俊也の器
しおりを挟むさよりとの約束が無言でドタキャンされた翌日、俊也は翌日、アルバイトもほかの予定もなかったので、アラームもセットせず、昼前まで寝ていた。
起き上がって5分ほどぼうっとした後、さよりのことを思い出す。
不可解さは残るものの、もうそこまで怒っていない。
そしてこれは、自分の器の大きさを見せつけるテストだと解釈することにした。
学生寮で電話が立て込みやすい時間などは知らないが、試しにかけてみるのも悪くない。
時計は11時23分。すぐ会う約束ができれば、ランチをともにできる。
つながらなかったら?出なかったら?出ても誘いを断られたたら?
そもそもが、昨日さよりが自分をすっぽかし、さらに後の弁明もないので、現況がさっぱり分からない。
だからこそ電話すべきだという判断に至った。
◇◇◇
あるアメリカ映画(※)のワンシーン。
ひとり息子を愛し、慈しむように育てるシングルファザーがいた。
ある日、その息子はなかなか帰宅せず、代わりに警察官が数人やってきた。
善良な彼は、実は「自分自身」があるトラブルに巻き込まれていることを全く知らず、こう尋ねた。
「息子に何かあったんですか?事故とか?」
彼には息子が何かをやらかして、警察のご厄介に…などという発想は全くなかった。
もしも俊也にこの父親のような発想があれば、会う約束をした場所にその相手がいなかったとしても、ひとしきり探した上で、寮や心当たりに電話をしていたろう。
事故ではないにせよ、何かあったのではと「心配」するのは、割と普通のことだ。
しかし俊也の場合、さよりのすっぽかしと判断し、腹を立てただけだった。
実際すっぽかしに違いはないのだが、「コケにされた」「弁明を聞いてやる」と、口には出さないものの思った時点で、器の大小など、判定を待つまでもない。
(※)1999年『ディープ・エンド・オブ・オーシャン』
映画をごらんになれば、この善良な男が知らずに巻き込まれている「トラブル」もおわかりになると思います。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
この裏切りは、君を守るため
島崎 紗都子
恋愛
幼なじみであるファンローゼとコンツェットは、隣国エスツェリアの侵略の手から逃れようと亡命を決意する。「二人で幸せになろう。僕が君を守るから」しかし逃亡中、敵軍に追いつめられ二人は無残にも引き裂かれてしまう。架空ヨーロッパを舞台にした恋と陰謀 ロマンティック冒険活劇!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる