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第11章 留守番電話

俊也の“アリバイ”

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※直接の表現はありませんが、性的なシーンが含まれます。

◇◇◇

 さよりが俊也の不在の部屋に留守番電話を吹き込んでいた頃、俊也は「友達」の家にいた。ただし、友達という表現がこれほど不適切な関係はないだろうという友達――元カノの「季実子きみこ」だった。

 季実子は一応、俊也と納得ずくで別れたはずだった。
 というよりも、俊也が季実子のあまりの浮気癖に嫌気がさし、「お前は俺一人じゃ満足できないようだから、どうぞ自由でいてくれ」と、解放するつもりで別れを告げた。

 年齢よりも大人びた容姿も魅力的だし、気も利く素敵な女性ではあるが、言葉を選ばずにいれば「男好き」であることは間違いなかった。その上、たとえその気がなくても、言い寄られると心が揺れ、なびいてしまうような、何となくフワフワしたところがあった。

 俊也は恋人以外と「そういう関係」にはならないと固く誓っていたので、季実子のそういうところを「その危うさがまた魅力」とは、とても思えなかったし、それに目をつぶってつなぎ留めたいと思うほどには惚れていなかった。

◇◇◇

 季実子と別れたのは4カ月ほど前で、以来、特に連絡もとっていなかったが、ちょうどさよりが実家から戻ってきた日の14時頃、季実子から突然電話がかかってきた。

『どもー、トッシーげんきー?きーちゃんでーしゅ!』
「季実子か?お前こんな時間から酒飲んでるのか?」
『いいじゃんかー、夏休みなんだから』
「お前が何をしようと勝手だが――もう俺たち、別れたはずだろう?」
『つめたーい。失恋した女を見捨てる気?』

「――別れたのか、例の男」
 季実子がその後付き合い始めた男のことは、俊也も顔と名前くらいは知っていた。
『そーなのー。私が合コン行ったくらいですんごい怒ってさー。自分だって似たようなモンのくせに』
「そうか。用がないなら切るぞ」
『待ってよ!ねえ、これから会えないかな?』
「何でお前と今さら会う必要があるんだ?」
『やっぱトッシーが一番よかったなーって思って。
 そしたら急に会いたいなって思ったの』
「随分調子がいいな…」

 さよりと真剣に交際していきたいと思い始めた俊也は、季実子の勝手な言い分に呆れるばかりだったが、次にはこう言われ、状況が変わった。

『もう。ほんと冷たいねー。あ、これからトッシーの家に行っていい?』
「それは困る。やめてくれ!」
『何で?いいじゃん』
「それぐらいなら俺の方から行く。お前もその様子じゃ、アパートだよな?」
『えー、マジ?来てくれんの?待ってるね~』

 電話はそこで切れ、俊也はため息をいた。

 この時点では、「相手は失恋?で不安定になっているだけの酔っ払いだ。適当にあしらってさっさと帰ってくればいい」くらいの気持ちだったことはうそではない。

 うそではなかったが、俊也は部屋に着いて物の20分で服を脱ぎ、季実子を抱いていた。

 「今寂しいから今抱いてほしい」
 「よりを戻してなんて言わない」
 「もう二度と電話しない」

 この3つのフレーズに、どれほどの信憑性があるかは分からない。
 最初は俊也も一応抵抗したが、だんだんと泣いて甘える季実子にほだされ、「さよりとはまだそういう関係ではないから、これは浮気ではない」という謎の理屈をひねり出し、罪悪感を払拭するように季実子と交わった。

◇◇◇

「やっぱりトッシー…ステキ。ねえ、私たち…」
 ベッドの中で背中を向ける俊也に背後から抱き着き、息も絶え絶えに言う季実子に、俊也は冷たく言い放った。
「俺には好きな子がいるんだ。約束どおり、もうこれっきりだ」

 季実子もまた、もう自分を見ていないらしい俊也を無理やり引き留めようとは思わなかったが、それでも「今夜だけは一緒にいて。明日になったらちゃんと他人になるから」と、知り尽くした俊也の体を巧みに刺激しながら懇願した。

「本当に――約束だぞ」

 さよりが2度目の留守電を吹き込んでいた頃、俊也は季実子と絡み合っていた。
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