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第5章 保留

さよりの誤算 2

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 学校も夏休みに入ろうという頃、さよりは19歳の誕生日を迎えようとしていたが、日曜日に電話当番になった。

 昼下がりにかかってきた電話をツーコールで取ると、「あの、わたくし松崎といいますが、水野さよりさんに取り次いでいただけませんか?」という声がした。

「松崎君?!どうしてここの番号を知っているの?」
『え…さよりさん?県の学生寮資料に書いてあったからだよ。というか住所もそれで知ったし』
「あ…」

 そう言われればそうだと、さよりは顔をしかめた。

『俺も大学に合格していたら、男子寮に申し込む予定だったから、資料取り寄せたんだよね』
「そう…なのね」
『で、もうすぐ誕生日でしょ?今から会ってプレゼント渡したいんだけど』
「あの…電話当番だから外せなくて…」
『えーっ。せっかく君のために買ったのに。ちょっとだけでも駄目?』
「ちょっとと言われても…」
『今、H台の駅前にいるから、ここから5分くらいかな。渡したらすぐ帰る』
「それでも無理だから!ごめんなさい!」

 ここできちんと足止めをしないと、寮のエントランスまで入ってこられる可能性もある。
 業者の男性が来ることもないではないが、基本的に男子禁制である。
 状況的には「知らなかった。ごめんなさい」程度で許されるだろうから、そうなったとき、どちらかというと心証を悪くするのは松崎ではなく、さよりの方かもしれない。

 タイミングよくというべきか、悪くというべきか、たまたまさよりの困った様子を見ていた先輩が、「1時間くらいなら、私が代理してもいいよ?」などと声をかけてきた。

「え?」
「よく分からないけど、それくらいで済む用事なら行ってきなよ」
「いや、別にそういうわけでは…」
「こういうことはお互いさまでしょ?ほら、行った行った!」
「ありがとうございます…」
「私が困ってるときは代わってね」

 今、教育系の大学の3年生だというその先輩は、普段からきさくで親切な人だったが、今回ばかりは「親切なら、人の話聞いてくれ~」しか感想がない。

 さよりは電話口に待たせていた松崎に、「あの、じゃ、そこにいてください。すぐ行きます」と答え、自分が最低限外に出られる格好であることを確認してから、財布と鍵とハンカチだけ持って飛び出した。
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