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第5章 保留
さよりの誤算 1
しおりを挟むさよりがGWに松崎の誘いを受け入れたのは、ほぼ松崎が意図した術中にはまった形だったが、一つだけ、嫌らしい可能性にもかけていた。
松崎とさよりは、実はその前年の5月、あのファストフード店での初対面以来、一度も会っていない。
和美が松崎に乞われて写真を渡したという可能性もゼロではないが、連絡先をうっかり教えてしまった反省もあり、そんなことはしていないだろう(と、少なくともさよりは信じていた)。
ということは、松崎はさよりの顔をよく覚えていない可能性がある。
待ち合わせ場所はデイゲームが行われるスタジアムの最寄り駅だから、自分たち以外にも待ち合わせをしている人はいるかもしれない。
野球観戦でなくても、遊園地、スケート、映画、飲食も楽しめる施設だから、デートにはもってこいだ。
つまり、そういう群衆に紛れてしまえば、松崎が自分を見つけられないかもしれないという希望的観測をしたのだった。
自分は松崎の顔をほとんど覚えていないので、こちらからは声をかけられない。
これで一定時間やり過ごせば、あとは「あなたは待ち合わせ場所に来なかったではないか?」と腹を立てる口実ができ、手紙も無視し続けていれば、諦めてくれるかもしれない。
そもそもその場所に行かず、「行ったんですけど~」と言い張ることだってできたろうに、さよりは中途半端な善良さと律義さで、一応約束だからと現地まで行ってしまった。
しかし結果、松崎は迷いなく「さよりさん、お久しぶりです」と近づいてきたので、策略は水の泡だった。
これも、「あの…さよりさん、ですか?」的なアプローチだったら、「違います」と言い張るというのも手だったが、そんなにまっすぐ来られては逃げ場がなかった。
ぎくしゃくデートの後は、電話番号を教えずに別れたので安心し切っていたし、手紙への返事も書かないつもりだった。
3通もらった手紙の後、1通だけ「仕事もお忙しいでしょうし、勉強に専念なさってください(訳・私に構うな!)」というはがきを送っただけだ。
しかし、こんなそっけないものでも、「さよりさんの思いやり」として受け取る松崎の気持ちなど、さよりには想像もできていなかったのだ。
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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