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第4章 デイゲーム
松崎の思惑
しおりを挟む松崎はひいきの野球チーム「大日本ゴライアス」の試合のチケットを2枚入手した。
もちろんさよりを誘うためである。
試合日程はゴールデンウイーク中のとある日曜日だった。
◇◇◇
松崎がなぜそれにさよりを誘おうと思ったのか。
映画に関しては、高校時代に何度か誘って断られていたが、理由はいつも「用事が」「模試が」などであった。
しかし考えてみると、さよりは優しいから、趣味でない映画に誘われても、それを言えなかっただけという可能性もある。
彼女はいつも、つつましい返信を送ってよこした。質問すれば答えることはあったが、あまり自分について語るのが好きではないのだろう。その奥ゆかしさに、松崎は一層好感を持つ。
しかし、そのせいで、「彼女の好きなもの」というのがよく分からない。
デートに行くならどんなところがいいか?食べ物は何が好きか?といったベタな質問もすべきだったと反省するが、今さら仕方がない。
遊園地もいいが、少し子供っぽい気がしてボツ。
スケートやボウリングなどは、さよりの運動能力が分からないのでナシ。もし彼女がスポーツ音痴だった場合、恥をかかせてしまう。
また、正直自分も運動は苦手だ。彼女が得意だったとしても、自分といることで恥をかかせるかもしれない。
ではスポーツ観戦は?
自分は野球が大好きで、特にゴライアスの大ファンである。
女性がプロ野球を好むかどうかは分からないが、高校野球には熱狂的なファンの女性が多い。
何より、人工物である映画と違い、ライブでスポーツ観戦をするのだから、
興味のない人間でも面白いと思うに決まっている。
また、映画と違い、日時が確定されているので、優しいさよりは、「チケットを2枚入手済み」といえば、断らないのではないか。
松崎は、自分は見た目はさえないし秀才でもないが、気が利いて思いやりのある、常識的な人物だという自負があった。
新聞奨学生になったのも、親に負担をかけないためだ。多分さよりには、その辺りもアピールできるのではないかと思う。
実際、「新聞奨学生になられたんですね。ご立派です。私は2年すねかじり予定です」という手紙をもらった。
朝は早く、仕事はとにかくきつい。しかし「さよりさんは俺を評価してくれるだろう」と思うと、不思議と無理が利いた。
◇◇◇
確かに松崎は、ある意味では人に気を遣う性格だったかもしれないし、道端にごみをポイ捨てする、信号無視をするといった基本的な無作法や違反行為はない。もちろん犯罪など無縁の人間である。
その一方で、前述のように自己中心的な考え方をすることが多かった。
それよりも何よりも、一番驚くべきは、松崎はさよりのことを「あまり会えないが、自分の彼女だ」として周囲の人間に話していたことだ。
それも見栄や虚勢などではなく、本気でそう思っているので始末が悪かった。
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