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第2章 モテ女の純情
さよりの淡い恋
しおりを挟む実はさよりは、誰にも言えないが、かなわない恋をしていた。
さよりは東京に住むいとこ・晴海と仲がいいのだが、その恋人である安部俊也に密かに憧れていたのだ。
晴海と俊也が大学1年、さよりが高校2年だった冬休み、たまたま晴海の家に泊まりがけで遊びに行っていたさよりは、お年始のあいさつと称して押しかけてきた、晴海の大学の同級生たちと顔を合わせた。
地方から出てきた純朴でかわいらしい女子高生ということで、男子学生たちからはかなりチヤホヤされたが、さよりの目には俊也――と、その隣で談笑する晴海の顔しか映っていなかった。
常々「打てば響くタイプが好き」と言っていたが、実は俊也とはまともに話したことがなかった。
身長は多分172か3といったところで、当時はやり始めた表現でいうと「ソース顔」とでもいうのか、大きな目、太目の眉毛のくっきりした顔立ちに特徴があった。
聞くまでもなく、あの楽しげな2人は付き合っているのだろう。
晴海の笑顔からするに、随分楽しい話をしていそうだ。
自分にも、あんな顔をさせてくれるカレシがいたらいいのにとか、私との会話であんなふうに笑ってほしい――などと思った。
さよりは「アナタさえいてくれればいい」と思える人とのめぐり逢いを求めていた。
そしてその人はきっと、あの俊也さんみたいな人だろうなと漠然と考えた。
というよりも、俊也さんがいい、私はあの人が好きだ――という思いは、日が経つにつれて強まっていった。
恋に恋する行為と笑うのは簡単だが、恋愛感情など移ろいやすいものだ。
さよりは東京のある短大を志望していた。
勉強したい学科だし、就職が良いっぽいからという理由だが、実際は俊也たちが通う大学の近くにある学校だからという理由が大きい。
あの「お年始あいさつ」の日、自分の視線に気づき、一度だけ「にっ」と笑いかけてくれた俊也は、自分のことなど覚えてもいないだろうが、彼の近くに行くことで、何かが起こるかもしれない――という淡い期待のようなものを抱いてもいた。
といっても、晴海から俊也を略奪するといった大それたことを考えていたわけではない。
例えば、推しの芸能人が進学した大学を目指すような気持ちに近かったかもしれない。
身近で生の笑顔を見たいとか、あわよくばお話ししたい程度の気持ちである。
ならば同じ大学に行けばいいのでは?という向きもあるだろうが、俊也と晴海の学校はそこそこ難関の人気校であり、さよりの成績では高望みだったので、「すぐ近くにある短大」「合同コンパのお相手として人気」的な、俗な情報を受験雑誌で拾い読みしていたことも付け加えておこう。
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