エスカレーター・ガール

さぁ、みんな。私の名を呼んで！ 私の名前は？

　空そら飛とぶクジラの大群たいぐんは、悠然ゆうぜんと青空あおぞら遊泳ゆうえいを楽たのしんでいる。この侵略者インベーダーどもが地球ちきゅうに対たいして『降伏こうふくか、死しか。精々せいぜい、よく考かんがえて選えらべ』と、一方的いっぽうてきに通告つうこくしてきたのが三日前みっかまえ。戦力せんりょくを誇こ示じし、宇宙船からの攻撃こうげきで砂漠さばくに巨大きょだいな窪地クレーターを作つくって、人類じんるいを嘲笑あざわらいながら去さっていった。

　返答へんとうの期限が今日の正午、つまり現在げんざい時刻じこくである。地球ちきゅう防衛軍ぼうえいぐんは私にサポートを申もうし出でたが、それは丁重ていちょうに断ことわった。地球の戦闘機せんとうきや攻撃こうげき兵器へいきで、どうにかなる相手あいてではない。私は恋人こいびとである、オペレーター嬢じょうからの通信つうしんのみを所望しょもうしている。

　空中くうちゅう浮遊ふゆうしながら敵てきの出方でかたを待まっていると、一頭いちとうのクジラが口くちを開ひらいた。そこから一人の女性が出でてきて、私と同おなじく空を飛んで向むかってくる。パワードスーツというのか、全身ぜんしんが黒くろずくめの衣装いしょうで、尖とがった角つのを生はやした兜かぶとも装着そうちゃくしていた。（あ、こいつ強つよい）と分わかる。私よりも身体からだが大おおきくて、コスチュームは豊ゆたかな胸むねの上側うえがわが、むき出だしで強調きょうちょうされていた。

「恋人ハニーちゃん、聞きこえる？　ちょっと帰かえりが遅おそくなると思おもうけど、必かならず勝かつわ。集中しゅうちゅうしたいから、しばらく通信つうしんを切きるわよ」

『エスカレーター・ガール……負まけてもいい、どうか生いきて帰かえってきて……』

　無線機インカムをオフにする。さて、戦闘せんとうの時間じかんだ。甘あまい感傷かんしょうに浸ひたっては、いられない。黒くろずくめの女性は私の前方ぜんぽうに、十じゅうメートルほどの距離きょりをあけて対峙たいじしてきた。

「言いわなくても分わかるだろうが、私が代表者だいひょうしゃだ。我わが軍ぐんに降こう伏ふくするかどうかを尋たずねる気きだったが……その目めが雄弁ゆうべんに物語ものがたっているな」

「あら、お利口りこうさん。ええ、降伏こうふくなんか、するもんですか！　あんたみたいな悪役ヴィランはね、今いままで何度なんども私に撃退げきたいされてきたの。その理由りゆうも分わからないまま、間抜まぬけなあ・ん・た・ら・は異次元いじげんから、懲こりずに侵しん略りゃく目的もくてきで此処ここに来くる。教おしえてあげるわ。悪党あくとうの生いき方かたが、割わりに合あわないってことをね！」

「勇いさましいことだ……確たしかに貴様きさまが、この星ほしを何度なんども守まもってきたのは知しっている。そして何な故ぜか、戦たたかいの詳細しょうさいは謎なぞのままだ。しかし所詮しょせん、貴様きさまは独ひとり。圧倒的あっとうてきな戦力差せんりょくさがあれば戦況せんきょうを覆くつがえすことも、できまい。一発いっぱつ逆転ぎゃくてんを狙ねらって、代表者である私を倒たおしてみるか？」

　いつものことだが、悪役ヴィランというものは有利ゆうりな状況じょうきょうになるとペラペラ喋しゃべりだしてくる。今回ほどの戦力差せんりょくさがあれば、それも当然とうぜんか。そして名前も知しらないが、この黒くろずくめ女性は強つよい。まともにやり合あえば苦戦くせんは必至ひっしで、その間あいだにクジラ型がたの宇宙船は地球を破壊はかいし尽つくすだろう。

「一発いっぱつ逆転ぎゃくてん？　そんなものを狙ねらう必要ひつようはないわ。あんたの後うしろの船ふねも、あんたも私が片かたづけてあげる。かかってきなさい！」

「良よかろう。まずは貴様が守まもろうとしている、この星ほしから破壊はかいしてやる。己おのれの無力むりょくを噛かみしめながら死しね！」

　悪趣味あくしゅみにも程ほどがある。クジラの大群たいぐんは目めを赤あかく光ひからせて、その両目りょうめから、私を無視むしして眼下がんかの地上ちじょうへと破壊的はかいてきな光線ビームを斉射せいしゃした。