1 / 5
1 悪い夢の始まり
しおりを挟む
今日も世の中は変わらなかった。そう絶望して職場から家に帰り、眠りに就く。それが、いつも通りの日常で、そこから私の夢は非日常へと繋がっていった。
「いいわね。その絶望、気に入ったわ」
暗闇の中で、少女らしき者の声がした。姿は見えず、暗闇だからか私自身の姿も認識できない。意識だけが浮遊しているような感覚で、夢の中では当然のようにも思えた。
「それはどうも。私の心を覗いている貴女は誰?」
声を出しているのか、テレパシーのようなもので会話をしているのか判然としない。特に不都合は無いので、どうでも良かった。
「誰、と言われると説明に困るなぁ。天使でも悪魔でも、死神でも好きに呼んで。そもそも私の立場って、その時に寄って変わるのよ。第一、私には名前が無いしね」
「そう。じゃ、とりあえず死神さん……でいいかな。私の魂を刈り取りにでも来たの?」
「ああ、いいわねぇ。その虚無的な態度が実にいいわ。分かってるわよ、世の中に希望が持てなくて、もう長く生きたいとも思えないんでしょ? 私が求めているのは、そういう人材なの」
人材を求めている、と言われた。テロリストの勧誘だろうか。私は無言で続きを待つ。
「ああ、いいわね。具体的な質問も思い付かなくて、ただ相手の言葉を待っている、その態度。安心して。これから紹介するのは闇バイトでも、テロの勧誘でも無いから。デスゲーム、って言えば分かるかしら」
なるほど。言葉の意味は、良く分かった。
「これから私を殺し合いに参加させて、その様子を貴女は高みの見物で楽しむと。そういう事かしら」
「そう言うと、ちょっと語弊があるなぁ。表現が悪かったわね、まあ実態は御想像の通りなんだけど。安心して。私が貴女に持ち掛けるのは、そんなに悪い話じゃないから」
悪い話としか思えないのだけれど、どうせ拒否権は無いのだろう。私は話の続きを待った。
「ん、説明を待ってくれて、ありがとう。じゃあ続けるけど、私はイカサマを仕掛けたいの。これから行われる、デスゲームというか、一大興行にね。私は主催者側なんだけど、人間界でもあるでしょ? オリンピックでも、サッカーのワールドカップでも、談合とか八百長がさ。人間界の事は詳しくないけど、私が仕掛けたいのは、そういう事なのよ」
「私だって談合や八百長には詳しくないわ……」
「とにかくね、今回のイベントは、優勝者の願いを何でも叶える事ができるの。でも人間って大体、私から見たら、つまらない願いしか持ってないのよね。いいのよ、別に? 身の回りの幸せを求めたり、世界一のお金持ちになったりしても。でも、それって、世界全体からしたら大した事じゃないわ。貴女なら分かるでしょう? 私が言ってる意味が」
死神さん?の言葉に対して、私は何も答えなかった。意味が分からなかったから、ではない。とても良く分かったからだ。
「……いいわねぇ。貴女の中にある、その渇望。求めている事自体は細やかな願いなのに、貴女を囲む世界は、それを決して認めようとしない。絶望しちゃうわよねぇ、死にたくなるわよねぇ。もし貴女が女性じゃなくて、血気盛んな男性だったらテロを起こしちゃうくらいの怒りが胸の中にあるのよね? いいのよ、隠さなくて。そんな貴女だからこそ、私は声を掛けたんだから」
「貴女は何者? 死神? 悪魔?」
「何でもいいじゃない。あえて言えば、私は世界を変える側の者よ。人間は認識できないけど、世界って何度も、私達が主催しているイベントの度に変化しているの。イベントの優勝者が、願いを叶える事に寄ってね。ただ、さっきも言った通り、特に最近は人間の願い事ってスケールが小さくてね。面白味が無いのよ。神様でも悪魔でも死神でもいいけど、とにかく私達は楽しませてほしいの」
「回りくどい言い方は止めて。私をデスゲームに参加させて、そして優勝させてくれる。そういう事よね? 貴女が持ち掛けようとしてるイカサマっていうのは」
「助かるわぁ、話が早くって。ええ、その通り。誤解してる人も居るけど、イベントにフェアプレーなんか、主催者側は求めてないのよ。全ては利権やら何やら、そういったものが絡んでるの。人間界の選挙だって、そういうものなんでしょう?」
「選挙なんか、どうでもいいわ。どうせ、それで私の願いは叶わないんだから。さっさと私が何をすればいいのか、詳しい事を教えて」
「まあまあ。ゆっくり話しましょうよ。先に説明するとイベントが終了して、優勝者が大きな願いを叶えたら、世界は新しく再構成されるのよ。そうなったらイベントで脱落して亡くなっちゃった人達の死も、リセットされて無かった事になるわ。パラレルワールドみたいな扱いね。だから罪悪感なんか持つ必要は無いわ。気にせずに殺っちゃって、殺っちゃって」
どうやらイベントというのは、夢の中で行われるようだ。それは何となく分かって、これから何が起こっても、夢の中だから気に病む必要は無いのだと私は心に決めた。
「いいわね。その絶望、気に入ったわ」
暗闇の中で、少女らしき者の声がした。姿は見えず、暗闇だからか私自身の姿も認識できない。意識だけが浮遊しているような感覚で、夢の中では当然のようにも思えた。
「それはどうも。私の心を覗いている貴女は誰?」
声を出しているのか、テレパシーのようなもので会話をしているのか判然としない。特に不都合は無いので、どうでも良かった。
「誰、と言われると説明に困るなぁ。天使でも悪魔でも、死神でも好きに呼んで。そもそも私の立場って、その時に寄って変わるのよ。第一、私には名前が無いしね」
「そう。じゃ、とりあえず死神さん……でいいかな。私の魂を刈り取りにでも来たの?」
「ああ、いいわねぇ。その虚無的な態度が実にいいわ。分かってるわよ、世の中に希望が持てなくて、もう長く生きたいとも思えないんでしょ? 私が求めているのは、そういう人材なの」
人材を求めている、と言われた。テロリストの勧誘だろうか。私は無言で続きを待つ。
「ああ、いいわね。具体的な質問も思い付かなくて、ただ相手の言葉を待っている、その態度。安心して。これから紹介するのは闇バイトでも、テロの勧誘でも無いから。デスゲーム、って言えば分かるかしら」
なるほど。言葉の意味は、良く分かった。
「これから私を殺し合いに参加させて、その様子を貴女は高みの見物で楽しむと。そういう事かしら」
「そう言うと、ちょっと語弊があるなぁ。表現が悪かったわね、まあ実態は御想像の通りなんだけど。安心して。私が貴女に持ち掛けるのは、そんなに悪い話じゃないから」
悪い話としか思えないのだけれど、どうせ拒否権は無いのだろう。私は話の続きを待った。
「ん、説明を待ってくれて、ありがとう。じゃあ続けるけど、私はイカサマを仕掛けたいの。これから行われる、デスゲームというか、一大興行にね。私は主催者側なんだけど、人間界でもあるでしょ? オリンピックでも、サッカーのワールドカップでも、談合とか八百長がさ。人間界の事は詳しくないけど、私が仕掛けたいのは、そういう事なのよ」
「私だって談合や八百長には詳しくないわ……」
「とにかくね、今回のイベントは、優勝者の願いを何でも叶える事ができるの。でも人間って大体、私から見たら、つまらない願いしか持ってないのよね。いいのよ、別に? 身の回りの幸せを求めたり、世界一のお金持ちになったりしても。でも、それって、世界全体からしたら大した事じゃないわ。貴女なら分かるでしょう? 私が言ってる意味が」
死神さん?の言葉に対して、私は何も答えなかった。意味が分からなかったから、ではない。とても良く分かったからだ。
「……いいわねぇ。貴女の中にある、その渇望。求めている事自体は細やかな願いなのに、貴女を囲む世界は、それを決して認めようとしない。絶望しちゃうわよねぇ、死にたくなるわよねぇ。もし貴女が女性じゃなくて、血気盛んな男性だったらテロを起こしちゃうくらいの怒りが胸の中にあるのよね? いいのよ、隠さなくて。そんな貴女だからこそ、私は声を掛けたんだから」
「貴女は何者? 死神? 悪魔?」
「何でもいいじゃない。あえて言えば、私は世界を変える側の者よ。人間は認識できないけど、世界って何度も、私達が主催しているイベントの度に変化しているの。イベントの優勝者が、願いを叶える事に寄ってね。ただ、さっきも言った通り、特に最近は人間の願い事ってスケールが小さくてね。面白味が無いのよ。神様でも悪魔でも死神でもいいけど、とにかく私達は楽しませてほしいの」
「回りくどい言い方は止めて。私をデスゲームに参加させて、そして優勝させてくれる。そういう事よね? 貴女が持ち掛けようとしてるイカサマっていうのは」
「助かるわぁ、話が早くって。ええ、その通り。誤解してる人も居るけど、イベントにフェアプレーなんか、主催者側は求めてないのよ。全ては利権やら何やら、そういったものが絡んでるの。人間界の選挙だって、そういうものなんでしょう?」
「選挙なんか、どうでもいいわ。どうせ、それで私の願いは叶わないんだから。さっさと私が何をすればいいのか、詳しい事を教えて」
「まあまあ。ゆっくり話しましょうよ。先に説明するとイベントが終了して、優勝者が大きな願いを叶えたら、世界は新しく再構成されるのよ。そうなったらイベントで脱落して亡くなっちゃった人達の死も、リセットされて無かった事になるわ。パラレルワールドみたいな扱いね。だから罪悪感なんか持つ必要は無いわ。気にせずに殺っちゃって、殺っちゃって」
どうやらイベントというのは、夢の中で行われるようだ。それは何となく分かって、これから何が起こっても、夢の中だから気に病む必要は無いのだと私は心に決めた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
百合カップルになれないと脱出できない部屋に閉じ込められたお話
黒巻雷鳴
ホラー
目覚めるとそこは、扉や窓の無い完全な密室だった。顔も名前も知らない五人の女性たちは、当然ながら混乱状態に陥る。
すると聞こえてきた謎の声──
『この部屋からの脱出方法はただひとつ。キミたちが恋人同士になること』
だが、この場にいるのは五人。
あふれた一人は、この部屋に残されて死ぬという。
生死を賭けた心理戦が、いま始まる。
※無断転載禁止
ココロハミ ココロタチ
宗園やや
ホラー
大切な友達が行方不明になった。
同時に起こる謎の連続殺人事件。
友達が事件に巻き込まれたのではと心配するつづるの手に、なぜか日本刀が飛び込んで来る。
訳も分からず戸惑うつづるの前に現れたのは……。
※他所でアップしたら男いらないと言われたので、野郎を削除しました。
※携帯電話をスマホに変更、価格設定を変更等、令和設定にしました。
※その他加筆修正しました。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
死界、白黒の心霊写真にて
天倉永久
ホラー
暑い夏の日。一条夏美は気味の悪い商店街にいた。フラフラと立ち寄った古本屋で奇妙な本に挟まれた白黒の心霊写真を見つける……
夏美は心霊写真に写る黒髪の少女に恋心を抱いたのかもしれない……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる