死亡賭博の殺し屋達

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1 好奇心は猫をも殺す

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 通常、囚人しゅうじんてつ格子ごうし付きのバスで護送ごそうされる。だが、今回は貨物列車で、拘束こうそくを着せられた男は運ばれている。各車両にはサブマシンガンを持った兵士が五名以上で、彼らは警察ではなく、民間軍事会社の所属だった。警察では手に負えない犯罪が増えた結果、これらの会社が国内で活躍する事となったのである。

 たった一人の殺し屋を運ぶためだけに、これだけの兵士が配置されるのは前代ぜんだい未聞みもんだ。それほど異常な事態なのだろう。そして列車の行先いきさきは、刑務所ではない。

「ずいぶん優しい待遇たいぐうじゃないか、拘束衣だけで済ませるとは。俺に猿轡さるぐつわ目隠めかくしは着けなくていいのか」

 列車の中で、簡易の椅子いすに腰かけさせられた、ホーネッツが世間話をするかのように語り掛ける。彼を取り囲む兵士達も、同様にサブマシンガンを持って座っていた。取り囲んでいる兵士達のリーダーかくが、ホーネッツに最も近い位置から会話に応じる。

「過度にストレスを与えて、あんたに死なれても困るんだよホーネッツ。何しろ、あんたはきたまま解剖されるんだから」
「なるほど。おれはホルマリンけにされるかえるか」

 フロッグという言葉が何かしら面白おもしろかったようで、ホーネッツは言いながら自分で笑った。られたようにリーダー格も笑う。

「実際、どんな事がおこなわれるかおれは知らんよ。ま、あんたに取っては『殺してくれ!』と言いたくなるような処置だろうな。人権擁護団体がうるさいから、とても国内では行えないような人体実験さ。国外に出れば、あんたはモルモットとして秘密の施設で生涯を終える」
「その施設まで、この列車で向かっているんだな。では、その前に俺は脱出しなければ」
「それこそ不可能さ、この列車は武装ヘリの護衛きだ。あんたを奪還だっかんしようとする軍隊が居れば別だが、そんな動きがあれば、すぐに情報は伝わる。そして、そんな動きは無い」
「なるほど。俺はフリーの殺し屋だから、別の同業者からの助けも期待できない。これは絶望的だな」

 言いながらホーネッツはニヤニヤと笑う。兵士達は馬鹿を見る目で彼を眺めていた。

みょうな事は考えない方がいいぜ、ホーネッツ。あんたをかしたまま施設まで運ぶのがベストだが、抵抗するなら、この場で射殺する。俺達としても、そんな事はしたくないんだ。あんたを生かして施設まで運べれば特別ボーナスが出るんでな」
「ずいぶんしゃべるじゃないか。窓ひとつない貨物車での移動が退屈たいくつなのかい」
「ああ、退屈も退屈だ。だから話を聞かせてくれよ、あんたに付いて」

 好奇心を抑えきれないという様子でリーダー格が言う。そして更に、言葉を続けた。

「あんたが殺し屋なのは確定事項なんだが、とにかくなぞだらけだ。あんたへの依頼があって、そして殺しがおこなわれたのは分かってる。だが手口てぐちが分からない。死体のそばで、はちが飛んでいたって情報があるくらいさ。被害者の死因もしん不全ふぜんという、なもの。これで裁判をやっても、あんたを有罪にするのは無理と言っていい」
「俺は犯行時刻に、現場から離れた所に居たからな。アリバイも完璧というわけだ」
「そう、だから余計よけいに分からない。あんたはみずから、警察に投降とうこうしてきた。犯行の手口はかさないまま、被害者の名前をげて『俺が殺した』と自白じはくした。何故、そんな事をする?」

 本当に知りたがっているようで、リーダー格はねつっぽくかたける。たいしてホーネッツは、あっさりと答え始めた。
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