じゃけぇ

転生新語

文字の大きさ
上 下
2 / 6

第2話

しおりを挟む
 そんな外国からの観光客も、騒動で見かけなくなって。嫌な感覚が私にはあった。世の中が暗くなっていくような、十一年ごとに私に訪れる、あの感覚。両親が亡くなった時の、十一才だった当時の絶望感は生涯、私の中からぬぐえない気がする。少なくとも独力どくりょくでは無理だ。

 親戚から離れて、高校を卒業して私は就職した。大学に行かなかった事も、弟との二人暮らしを選んだ事も後悔は無い。そもそも弟と居る事は、なかば私のエゴによるものだった。

 私が弟を守っているように、周囲からは見えたらしくて、そう弟も信じているようだ。実際は違う。かりに弟と引き離されたら、もう私は生きていけない。単に、それだけだった。

 二〇二〇年、私は二十才になって、弟も中学に入学した。私としては弟の将来を考える必要がある。姉の欲目よくめと言ってもらって良いが、私から見て、弟は頭が良かった。高校は当然として、大学にだって行かせたい。その費用を私は捻出ねんしゅつできるだろうか。

 私だって、いつまで弟の面倒を見られるか分からない。人がある日、突然に亡くなる事を私は実体験で知っていた。私が世を去った時に、弟を経済的に支えてくれる人間が必要となる。

 真っ先に思い浮かんだ方法があった。結婚である。かつて私が夢見た、お姉さん達で一杯いっぱいのハーレムが遠ざかっていくのを感じた。



じゃけぇだから言いいっよるてるじゃろうでしょう。あんたが、どがいなどんな男の好みをしとるしてるのか、教えんおしえなさい」

 私達が暮らしているアパートで、ある日、そう私は弟を尋問した。

「姉ちゃんの結婚に付いて、何で俺が、俺の『男の好み』を教える必要があるの。意味が分からんよ、姉ちゃん」

 弟が私の尋問に文句を言う。広島の男子は、自分の事を「わし」というのが一般的らしいのだけど、弟は「おれ」で通している。最近は、そういう男子も多いと聞く。

「決まっとるてるじゃろうでしょううちは、どうやっても男はあいせんせない。なら、あんたの好みを優先するなぁのは、当然じゃでしろうにょうに

 こんな当たり前の理屈が分からない辺り、まだまだ弟はおさないなぁと私は思う。弟は弟で、か私に対してあきれているような視線を向けてくる。

何処どこの世界に、弟の好みだけで結婚相手を決める奴がるんじゃ。相手も迷惑じゃろうろう

 現実を分かっていないおろかな弟が、そんな事を言ってくる。私は腹が立ってきた。

阿呆あほうじゃのぉだねぇ、あんた。二十才の女が体を差し出せば、食いつく男は山ほどるわ。うちえさよ。うちが食べられて、男が引っかかる。あんたの学費を捻出ねんしゅつできる結婚相手をゲットじゃ。あんたも好き嫌いはあるじゃろうろうから、あんたが愛想あいそよく出来できる男を選びたい。こんな簡単な理屈が何で分からんのよ」

 言いながら、そういえば弟の性的せいてき指向しこうを私は知らないなぁと思った。仮に弟も同性愛者だったら、私の将来の夫を好きになったりするのだろうか。弟さえ幸せなら何でも良いのだが。

「……それでは、姉ちゃんが不幸せじゃろう。ハーレムの夢はあきらめるのかよ」

 ビックリした。まさか弟が、私の十四才当時の中二病な夢を覚えているとは。

「あはは! あがいなぁあんなのは夢よ、夢。第一、日本でハーレムなんかは作れんのよ、弟くん」

 日本では法的に、異性との結婚しか認められていない。私に言わせれば、それは同性愛者に取っての地獄である。異性愛者が生涯、同性とげる事をいられる状況を想像してほしい。恋愛もキスもセックスも同様だ。少なくとも私には耐えられない。

うちは結婚して、夫に、あんたへの学費を出してもらう。それだけの事よ。めでたし、めでたしじゃ」

 弟が大学に行ければ、それで私の役割は終わりでいい。いっそ暴力的な夫に殺されればばやい。そう思った。

「……まあ、やってみりゃあみればええいいよ。どうせ失敗するけぇから

 何だか分かったような事を弟が言う。それはそれで、私に魅力が無いようでムカついた。弟の評価をくつがえすべく、私はアプリを使った婚活を開始した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合を食(は)む

転生新語
ライト文芸
 とある南の地方の女子校である、中学校が舞台。ヒロインの家はお金持ち。今年(二〇二二年)、中学三年生。ヒロインが小学生だった頃から、今年の六月までの出来事を語っていきます。  好きなものは食べてみたい。ちょっとだけ倫理から外(はず)れたお話です。なおアルファポリス掲載に際し、感染病に関する記載を一部、変更しています。  この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。二〇二二年六月に完結済みです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

好きになっちゃったね。

青宮あんず
大衆娯楽
ドラッグストアで働く女の子と、よくおむつを買いに来るオシャレなお姉さんの百合小説。 一ノ瀬水葉 おねしょ癖がある。 おむつを買うのが恥ずかしかったが、京華の対応が優しくて買いやすかったので京華がレジにいる時にしか買わなくなった。 ピアスがたくさんついていたり、目付きが悪く近寄りがたそうだが実際は優しく小心者。かなりネガティブ。 羽月京華 おむつが好き。特に履いてる可愛い人を見るのが。 おむつを買う人が眺めたくてドラッグストアで働き始めた。 見た目は優しげで純粋そうだが中身は変態。 私が百合を書くのはこれで最初で最後になります。 自分のpixivから少しですが加筆して再掲。

【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。 一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか? おすすめシチュエーション ・後輩に振り回される先輩 ・先輩が大好きな後輩 続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。 だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。 読んでやってくれると幸いです。 「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195 ※タイトル画像はAI生成です

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

処理中です...