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番外編

女性エルフと下僕(イツキ編完)

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「は、下僕?」
「下僕よ、下僕。まあ奴隷でもいいけど」
「いやいやいやいやいや、なんで俺がそうならないといけないわけ?」

 イキナリわけわかんない事を言う女性エルフに対して首を横に振ると彼女はニッコリと微笑み、僕の左肩を強く握りしめてきた。

「い……あ、ああああああああああ!!!!!」

 そして、目の前が真っ白になった。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 もはや何処が痛い、どれくらい痛いなんて考えてられないくらい痛い。
 というか痛み以外の何も感じられず、しかしその途方もない激痛の中気を失うことすら出来ず、その他の思考すらままならなくなる。
 なんでこんなことになったとか、この痛みがなんなのかとか、一体いつまで続くんだとかも考えられず、ただひたすらにこの純粋な痛みを感じることしかできない。

 と、唐突に目の前に色が戻った。

「あ、ああ、な、何だ今の……」

 まだ全身が激痛を訴えているような気がするが、体を見れば全く怪我はなく、また体に触れたら普通に感触があることから今の痛みは幻痛であると把握する。

「それで、貴方は私の下僕よ。いいわね?」
「はぁ!?だからなんでそうなるんだ「あら?まだ抵抗するなんて、中々に根性があるわね。ならもう一回」ごめんなさい下僕でいいですだからあの痛みだけは止めて下さい」
「ちょっと脅しただけでヘタれるなら、最初から意地を張らなければいいのに」

 目の前の女性エルフが呆れたように溜息を吐き出すが、だって下僕とあの痛みを天秤にかけたら明らかに下僕の方がいいやと思えたのだから。
 というかあんな痛み以外の思考とか他の事全てを奪われた上で、気を失うことすら許されないなんて拷問をもっかい受けるぐらいなら死んだ方がマシだと心から思うね。

「それじゃあ移動するわよ。まっさかあそこら辺で頭垂れてるエルフ共のように歩けない~、なんてなっさけない事言わないわよね?」
「は、誰がんなクソ情けない事言うかよ、バーカ」
 正直さっきの衝撃が抜けきなくて足腰に力が入らなくて膝が笑っているけども、強気に引きつってはいるものの笑って見せて罵倒する。

「な!?貴様、この方を一体どなたと」
「黙りなさい」

 それに重役エルフが反応するものの、目の前の女性エルフの一喝で黙り込む……睨み殺さんとばかりに般若の如き表情になっているが。
「はぁ……ファイアス、今日の交信は中止とします。貴方達も先程射った矢を片付けてから通常業務に戻りなさい。これは命令です、一切の文句も受け付けません」
「はっ」
 それに重役エルフ改めファイアス……重役エルフでいっか、が恭しく女性エルフに頭を下げてから俺を睨んで撤収していった。

「それじゃあにんげ……下僕、私に付いて来なさい」
「おい!なんで今言い直した!?」
「なに?折角貴方がヤられそうだったから助けてあげたのにその態度?今からでも広場で晒し首にでもして差し上げましょうかしら?」
「ほんっとーに、申し訳ありませんでした助けて頂いてありがとうございました下僕でいいですのでどうぞ命だけはご勘弁いただければ」
 そう言って目の前でとりあえず土下座を披露すると、女性エルフは呆れたように溜息をつく。

「下僕、その状態で顔を上げても私の服の中は覗かせないわよ?」
「誰がんなつもりで頭下げるかあああぁぁぁぁぁ!!」
「軽い冗談に決まってるじゃない」

 そう言って笑う女性エルフ……よし、この性格悪いエルフは性悪エルフと呼ぶことにしよう、心の中でな!!

「じゃあ行くわよ下僕、付いて来なさい」

 そう言ってくるりと俺に背を向けて歩き始める性悪エルフ。

「おい、どこ行くんだよ!この……あー……」
 性悪エルフと言いかけてようやく、俺もこいつも名乗ってはいない事に気がついた。

「そういや名乗ってなかったな。俺はイツキだ」

 イツキ、これは俺の所謂ハンドルネームである。
 本名「泉 吉木」という俺はまず泉を「いずみ→いづみ→いつ」とし、吉木の木を最後にくっつけた感じだ。
 本名みたいだけど本名ではないこのハンドルネームを俺は好んで使っていたのだ。

「ふーん」
「ふーんってなんだふーんって!」
 人の名前を聞いて普通そんな興味無さそうにするかよ。
「なんで私が下僕の名前を覚える必要があるのよ」
「こんの……」
 俺が何でそんな扱いを受けなければと言おうとする声は、性悪エルフの声に遮られる。



「私の名前はメイフィア・ファル・フルール。ファルは人族の言う所の王族、フルールはエルフの中でも神と交信することが出来る特別な者にのみ与えられる名なの。だからメイでいいわ」



「……は?王族?神と交信?え?」
 なんか今、結構凄いこと聞いたような気がするのだが……
「そうよ、私はこれでもエルフ族の中でも一番か二番に偉い立場なんだから」
「はあ!?」

 この性悪エルフ、とんでもない立場であった。

「あ、そうそう今更だけどもしこの事を人にバラしたら『早く殺してくれ!』って叫ばしてあげるから覚悟しなさい?」
「んなっ、んなことなんで言って、そんで笑顔なんだよ!」
「え?下僕がそうしてくれたら遠慮なく実験に使えるじゃない」

 やっぱ怖えぇわこいつ。

「と、着いたわよ」
「は?どこにだよ」
「私の家よ家」

 そうして指差した先には一人でも少々手狭では無いかと思うような小さな木の小屋が建って……いや、間違っても王族が住むには相応しくないものであった。

「ちっちゃくね?」
「広いと落ち着かないのよ。下僕、貴方はこれから私の身の回りの世話をさせてあげるから」
「はぁ?」
「一体どこの世界に好き好んで下僕を仕事もさせずに滞在させる主が居るのかしら?働かざるもの食うべからずよ、働いている間は私が責任を持って守ってあげるわ」
「お、おう……」

 批難したら物凄くマトモで、そしてありがたい答えが返ってきて戸惑う。

「早く入りなさい下僕。今日からここで美しくて力もあって性格もいい私と同棲出来る栄誉を誇ってその身を粉にして働く事ね」
「性格がいい?」
「あら、今何か言ったかしら?」
「何でもありません!」

 ほんっと性格悪いなこいつ!

「あ、ご飯は朝6時、昼12時、夜7時丁度に完成するようにして、寝床は下僕と一緒なんてごめんだから床で寝なさい」
「はぁ!?寝床が床とか無理なんだけど!」
「文句言うなら自分で作ればいいじゃない。布と綿くらいならあげるわよ」
「そこまでするなら現品くれてもいいんじゃないですかね!?」
「嫌よ。下僕をそこまで甘やかすなんてタメに……私がツマラナイじゃない」
「なんでそこ言い直した!」
「私が楽しいから」

 は、腹立つ……殴ってやりたくなる気持ちを抑え込んで1つ溜息をつく。



「まあ素性もわからねぇ上に変なとこ入った男をこうして助けてくれただけ感謝しねぇとか」



 俺はそう呟いて狭い家の中に足を踏み入れた。



 これが俺が異世界へ飛ばされ、日本に帰るまでの物語の始まりである。
 始まりはあんまりであったが今ではこの狭い家が俺の異世界での自宅のようなもので、エルフの大森林は俺の第2の故郷とまで言える程落ち着ける場所である。
 これから約3年後にとある農民と契約した混沌竜と出会うのだが、この時はまだ知る由もない。

 それまでの話はまたいつか、機会があれば話そうと思う。
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