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第三章 農民が動かす物語
不協和音
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「はぁ、今日で終わるのかな……」
「モー……」
僕が思わず吐いた溜息に、丁度乳を絞っていたタームが元気無く鳴いた。
僕のおじいさんに当たる人から手紙が届いてから今日までに、家はもう滅茶苦茶になっていた。
毎日楽しく話しながら食べていた食事が無言になり、重い空気が場を漂う。
美味しいはずのご飯は味を感じられず、喉を通らない。
誰かが何かと口を開こうとしては固まり、再び口を閉じて俯いてしまう。
そしてお父さんが口を開くと決まって「ロイ、自分の将来だ。一時の感情で決めるな」とばかり言う。
一度だけ僕が「僕はこのまま農家として生きたい」と言った時、お父さんは「まだあいつらが来るまで時間がある、もう一度しっかり考えなさい」とだけしか言わなかった。
僕が農家として生きたいと言った時にお母さんはすぐに嬉しそうな顔をしたけど、お父さんの言葉に一瞬だけ睨み、そしてどこか悔しそうに俯いてしまう。
ミリィも僕の言葉に嬉しそうにしてたけど、お父さんの言葉でしょんぼりとしてしまっていた。
何時も家族皆で集まっているはずの居間は、食事の時以外使われなくなった。
会話は必要最小限な物だけになり、生まれて初めて「ここに居たくない」と思うようになってしまった。
そんな日々を過ごし、今日は8月14日。
ようやく元凶であるおじいさんとおばあさんがやってくる日になった。
(……元凶?)
ふと、自分が今使った言葉に引っかかりを覚える。
確かに今の状態はとても嫌で、その原因は今日来るはずのおじいさんとおばあさんだ。
でも、だからといって彼らを悪人だとは思っていなかったはずだ。
もしそうならお父さんは絶対に僕に商人になる道もあるなんて事は言わなかったはずだし、なんでそう思ってしまったのか全くわからなかった。
「ううーん……」
「どうしたのだ、ロイよ」
「えっとねー……て、わ!」
今はターム以外には誰も居ないと思っていたらいきなり真後ろから声を掛けられてビクッとしてしまった。
「驚かせてしまったか?」
「あ、コン」
振り返るとそこには、畑の様子見をお願いしていたコンが居た。
野菜の収穫もだいぶ終わり、あとは残りの若干青い実が熟れるのを待つだけなのだ。
そのため水やりと熟れた実の収穫をコンに任せてタームの世話をしていたけど、もう既に終わらせたみたいだった。
「えっとねー……あれ、今何を考えてたんだったけ?」
「我に聞かれても分からぬぞ?」
「うーん、まあいいか」
それから少ししてタームの世話が終わり、朝食。
今日も家族揃って囲む食卓にはこれまでより一層重い空気が漂っていた。
「ロイ、もうすぐ俺の親父たちが来る。あいつらと話をしてからどうしたいのか決めなさい」
静かに食べる音だけが響く中、急にお父さんがそんな事を言う。
「うん……」
最近のこの雰囲気で既に気が滅入ってしまっていた僕は、力なく頷く。
「ロイ、お母さん達の事は気にしなくていいからね。それに、向こうに行ってもコンちゃんが居たら何時でも帰れるでしょう?」
そう言うお母さんの顔は、明らかに辛い気持ちを押し殺した笑みだった。
「わ、私、私は、お兄ちゃん、行っちゃうのやだぁ……」
ミリィは言いながら涙目になり、僕の腕を掴む。
僕はミリィに「この家を出る気はないよ」って言ってあげたかったけど、その前にお父さんが口を開いた。
「ミリィ、お兄ちゃんと会えなくなることはないんだ。だからこの家を出ても寂しがることはない」
お父さんはそう言って、まるで僕がこの家を出る事が幸せのように言う。
でも、僕はお父さんも僕の事で悩んでいた事を知っている。
お父さんは農業の傍らタンスも作っているけれど、最近はミスが多くて材料の木の板を既に4枚程無駄にしていた。
普段ならまずそこまでミスはしないお父さんだけど、最近は夜にフラフラと家を出て歩いているのだ。
そのおかげで最近昼も眠そうにしており、しかし夜には寝付けずにまた外を歩いているという悪循環に陥っているのだ。
「でも、でもぉ……」
しかし納得の出来ないミリィはただただ駄々をごねるように泣いて、僕の腕にしがみつく。
「ミリィ、お母さんと一緒にお部屋に行こう」
その様子にお母さんも目を潤ませながら、ミリィを僕から引き離して2階の部屋へと移動していった。
「ロイ、そろそろ時間だ。北門に行くぞ」
「うん……」
「モー……」
僕が思わず吐いた溜息に、丁度乳を絞っていたタームが元気無く鳴いた。
僕のおじいさんに当たる人から手紙が届いてから今日までに、家はもう滅茶苦茶になっていた。
毎日楽しく話しながら食べていた食事が無言になり、重い空気が場を漂う。
美味しいはずのご飯は味を感じられず、喉を通らない。
誰かが何かと口を開こうとしては固まり、再び口を閉じて俯いてしまう。
そしてお父さんが口を開くと決まって「ロイ、自分の将来だ。一時の感情で決めるな」とばかり言う。
一度だけ僕が「僕はこのまま農家として生きたい」と言った時、お父さんは「まだあいつらが来るまで時間がある、もう一度しっかり考えなさい」とだけしか言わなかった。
僕が農家として生きたいと言った時にお母さんはすぐに嬉しそうな顔をしたけど、お父さんの言葉に一瞬だけ睨み、そしてどこか悔しそうに俯いてしまう。
ミリィも僕の言葉に嬉しそうにしてたけど、お父さんの言葉でしょんぼりとしてしまっていた。
何時も家族皆で集まっているはずの居間は、食事の時以外使われなくなった。
会話は必要最小限な物だけになり、生まれて初めて「ここに居たくない」と思うようになってしまった。
そんな日々を過ごし、今日は8月14日。
ようやく元凶であるおじいさんとおばあさんがやってくる日になった。
(……元凶?)
ふと、自分が今使った言葉に引っかかりを覚える。
確かに今の状態はとても嫌で、その原因は今日来るはずのおじいさんとおばあさんだ。
でも、だからといって彼らを悪人だとは思っていなかったはずだ。
もしそうならお父さんは絶対に僕に商人になる道もあるなんて事は言わなかったはずだし、なんでそう思ってしまったのか全くわからなかった。
「ううーん……」
「どうしたのだ、ロイよ」
「えっとねー……て、わ!」
今はターム以外には誰も居ないと思っていたらいきなり真後ろから声を掛けられてビクッとしてしまった。
「驚かせてしまったか?」
「あ、コン」
振り返るとそこには、畑の様子見をお願いしていたコンが居た。
野菜の収穫もだいぶ終わり、あとは残りの若干青い実が熟れるのを待つだけなのだ。
そのため水やりと熟れた実の収穫をコンに任せてタームの世話をしていたけど、もう既に終わらせたみたいだった。
「えっとねー……あれ、今何を考えてたんだったけ?」
「我に聞かれても分からぬぞ?」
「うーん、まあいいか」
それから少ししてタームの世話が終わり、朝食。
今日も家族揃って囲む食卓にはこれまでより一層重い空気が漂っていた。
「ロイ、もうすぐ俺の親父たちが来る。あいつらと話をしてからどうしたいのか決めなさい」
静かに食べる音だけが響く中、急にお父さんがそんな事を言う。
「うん……」
最近のこの雰囲気で既に気が滅入ってしまっていた僕は、力なく頷く。
「ロイ、お母さん達の事は気にしなくていいからね。それに、向こうに行ってもコンちゃんが居たら何時でも帰れるでしょう?」
そう言うお母さんの顔は、明らかに辛い気持ちを押し殺した笑みだった。
「わ、私、私は、お兄ちゃん、行っちゃうのやだぁ……」
ミリィは言いながら涙目になり、僕の腕を掴む。
僕はミリィに「この家を出る気はないよ」って言ってあげたかったけど、その前にお父さんが口を開いた。
「ミリィ、お兄ちゃんと会えなくなることはないんだ。だからこの家を出ても寂しがることはない」
お父さんはそう言って、まるで僕がこの家を出る事が幸せのように言う。
でも、僕はお父さんも僕の事で悩んでいた事を知っている。
お父さんは農業の傍らタンスも作っているけれど、最近はミスが多くて材料の木の板を既に4枚程無駄にしていた。
普段ならまずそこまでミスはしないお父さんだけど、最近は夜にフラフラと家を出て歩いているのだ。
そのおかげで最近昼も眠そうにしており、しかし夜には寝付けずにまた外を歩いているという悪循環に陥っているのだ。
「でも、でもぉ……」
しかし納得の出来ないミリィはただただ駄々をごねるように泣いて、僕の腕にしがみつく。
「ミリィ、お母さんと一緒にお部屋に行こう」
その様子にお母さんも目を潤ませながら、ミリィを僕から引き離して2階の部屋へと移動していった。
「ロイ、そろそろ時間だ。北門に行くぞ」
「うん……」
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