82 / 125
第三章 農民が動かす物語
クルク村の人達(2)
しおりを挟む
「そ、それだけって……」
「それだけっつったらそれだけよ」
頭を下げたまま顔を上げるとテウがムスッとした顔で続ける。
「別にゼンさんが悪いことするんじゃなくて、縁切った奴が来て悪口吐くけど耐えてくれって話なら頭下げる必要ねーじゃん?」
テウはそれにと話を続ける。
「俺が昔野菜盗んだの皆許してくれるどころか出すとこに出さず、この村でずっと過ごさせて貰ってるだろ?こんな俺を迎え入れてくれた皆なんだ、その程度の事で深く頭下げる必要なんて何処にもねーだろ?」
そう、彼は昔この村で野菜泥棒をした事のある人物である。
この村が出来てまだ10年もしない丁度今頃、村の野菜が少しばかり消えるという事があった。
しかしそれは子供のイタズラなどではなく、夜中に何者かが盗んでいる跡だった。
動物や魔物ならまず盗むなどぜず野菜を齧り、畑を荒らした跡がつくはずが盗まれた跡は綺麗で明らか人の犯行であった。
なので自警団が夜中ひっそりと明かりを消して畑で待っていると盗みにやって来たテウを見つけて捕らえ、翌朝まで物置に縛って放置してから尋問したのだ。
「あん時商売に失敗して財産無くして子供とあちこち彷徨って、流れ着いたこの村で盗みを働いた俺を『これから奴隷のようにこき使ってやるからそこのボロ小屋勝手に直してろ。今年だけ食糧わけてやっから来年からは自立しやがれ』って村長の言葉、未だに感謝してもしきれねぇよ」
そういや話し合いの結果そうなったことを思い出す。
確か罰として隙間風の凄いボロ小屋にあいつを住まわせて、他の住人より広い土地を畑にさせて丸芋をアホみたいに育てさせたっけ。
彼の子供は隙間風の凄い家で風邪を引いてはいけないので、村長宅で育てられていた。
そのボロ小屋は村長の家の近くであった事もあり、今では広い畑を毎日世話しながら村全体への伝令を一人で行う働き者になっている。
「まあ確かにこの村をバカにされるのは嫌だけどよ、頭下げなくても皆その程度の事受け入れるだろ?」
テウがそう言って「なあ皆」と言うとすぐに「当たり前だ」とか「てめえがいい話風にしてんじゃねぇ」とか「元泥棒さんの言う通りだ」とか……若干テウへの煽りも入っているけど賛同する声ばかりだった。
「確かに俺が悪かったけどもう何年も前の事だろ……まあそんな事はいいとして、本気で頭下げるためだけに俺達を呼んだのか?それ以外に何か話あるんじゃねーの?」
テウは基本あまり頭が良い奴では無いけどこういう時は何故か鋭く、そしていつの間にか村長と変わって場の進行役になっている事が多い。
「そうだ、これも理由の一つだけどこれだけなら直接家を回るさ」
「じゃ、他にも理由あるんだな?」
テウがそう言うと、先程の話で緩んでいた空気が引き締まる。
「そうだ。もうひとつの理由は今回あいつらが来る理由でもあるんだが、俺の息子のロイをバートン家の跡継ぎにするために引き取りにくる。俺はロイ自身が望むなら、この村からあいつらの所に送り出そうと思っている」
「な、ロイを跡継ぎにしないのかよ!?」
と、あちこちから声が上がる。
「それはロイ自身が決める事であって俺が決める事じゃなない」
俺自身商人が嫌でこの村に来る事を選んだのだ、ロイが家を出ていく選択をしても恨む筋合いもない。
「でも、ロイが商人なんてなれんのかよ!」
それは俺も考えたが、だが商才のあるなしに関わらない事が1つある。
「確かにあの性格だし難しいだろうな。でもロイの従魔は混沌竜で転移魔法を自由に使いこなしている。これは遠く離れた国との物流に大きな影響を与えるだろうな」
その言葉に村長も含めた誰もが驚く。
よく王城に向かう事は話ているものの、それを転移と教えたことはない。
恐らく皆コンの上に乗って移動しているんだろうと予想していたはずだ。
「話はわかった。じゃがロイにはちゃんとその話をしておるのかの?」
そこで村長から聞かれ、俺は一瞬言葉に詰まる。
「まだ話してはないが、この後じっくりと話すつもりだ」
そう俺が言うと村長は一度深くため息をついた。
「ゼン、ならば儂らとこんな話をしとらんで先にロイと話して来なさい。突然そのような選択を迫られては困るじゃろうから考える時間をあげなさい」
村長はそう言うと俺にニッコリと、しかし真剣な目で俺を見つめる。
「直接言えぬのであれば儂が代わりに話しても構わぬが、ゼンはそれでも良いのかの?」
「そ、それは……」
「今すぐ帰って話して来なさい。話は儂がまとめておくのでな」
その言葉に、俺はようやくロイに話す決心がついた。
「……わかった。ありがとう、村長」
俺は礼を言って軽く頭を下げると玄関へ走り、そして靴を履くと家へと駆ける。
「でも、いったいなんて切り出せばいいんだ……」
「それだけっつったらそれだけよ」
頭を下げたまま顔を上げるとテウがムスッとした顔で続ける。
「別にゼンさんが悪いことするんじゃなくて、縁切った奴が来て悪口吐くけど耐えてくれって話なら頭下げる必要ねーじゃん?」
テウはそれにと話を続ける。
「俺が昔野菜盗んだの皆許してくれるどころか出すとこに出さず、この村でずっと過ごさせて貰ってるだろ?こんな俺を迎え入れてくれた皆なんだ、その程度の事で深く頭下げる必要なんて何処にもねーだろ?」
そう、彼は昔この村で野菜泥棒をした事のある人物である。
この村が出来てまだ10年もしない丁度今頃、村の野菜が少しばかり消えるという事があった。
しかしそれは子供のイタズラなどではなく、夜中に何者かが盗んでいる跡だった。
動物や魔物ならまず盗むなどぜず野菜を齧り、畑を荒らした跡がつくはずが盗まれた跡は綺麗で明らか人の犯行であった。
なので自警団が夜中ひっそりと明かりを消して畑で待っていると盗みにやって来たテウを見つけて捕らえ、翌朝まで物置に縛って放置してから尋問したのだ。
「あん時商売に失敗して財産無くして子供とあちこち彷徨って、流れ着いたこの村で盗みを働いた俺を『これから奴隷のようにこき使ってやるからそこのボロ小屋勝手に直してろ。今年だけ食糧わけてやっから来年からは自立しやがれ』って村長の言葉、未だに感謝してもしきれねぇよ」
そういや話し合いの結果そうなったことを思い出す。
確か罰として隙間風の凄いボロ小屋にあいつを住まわせて、他の住人より広い土地を畑にさせて丸芋をアホみたいに育てさせたっけ。
彼の子供は隙間風の凄い家で風邪を引いてはいけないので、村長宅で育てられていた。
そのボロ小屋は村長の家の近くであった事もあり、今では広い畑を毎日世話しながら村全体への伝令を一人で行う働き者になっている。
「まあ確かにこの村をバカにされるのは嫌だけどよ、頭下げなくても皆その程度の事受け入れるだろ?」
テウがそう言って「なあ皆」と言うとすぐに「当たり前だ」とか「てめえがいい話風にしてんじゃねぇ」とか「元泥棒さんの言う通りだ」とか……若干テウへの煽りも入っているけど賛同する声ばかりだった。
「確かに俺が悪かったけどもう何年も前の事だろ……まあそんな事はいいとして、本気で頭下げるためだけに俺達を呼んだのか?それ以外に何か話あるんじゃねーの?」
テウは基本あまり頭が良い奴では無いけどこういう時は何故か鋭く、そしていつの間にか村長と変わって場の進行役になっている事が多い。
「そうだ、これも理由の一つだけどこれだけなら直接家を回るさ」
「じゃ、他にも理由あるんだな?」
テウがそう言うと、先程の話で緩んでいた空気が引き締まる。
「そうだ。もうひとつの理由は今回あいつらが来る理由でもあるんだが、俺の息子のロイをバートン家の跡継ぎにするために引き取りにくる。俺はロイ自身が望むなら、この村からあいつらの所に送り出そうと思っている」
「な、ロイを跡継ぎにしないのかよ!?」
と、あちこちから声が上がる。
「それはロイ自身が決める事であって俺が決める事じゃなない」
俺自身商人が嫌でこの村に来る事を選んだのだ、ロイが家を出ていく選択をしても恨む筋合いもない。
「でも、ロイが商人なんてなれんのかよ!」
それは俺も考えたが、だが商才のあるなしに関わらない事が1つある。
「確かにあの性格だし難しいだろうな。でもロイの従魔は混沌竜で転移魔法を自由に使いこなしている。これは遠く離れた国との物流に大きな影響を与えるだろうな」
その言葉に村長も含めた誰もが驚く。
よく王城に向かう事は話ているものの、それを転移と教えたことはない。
恐らく皆コンの上に乗って移動しているんだろうと予想していたはずだ。
「話はわかった。じゃがロイにはちゃんとその話をしておるのかの?」
そこで村長から聞かれ、俺は一瞬言葉に詰まる。
「まだ話してはないが、この後じっくりと話すつもりだ」
そう俺が言うと村長は一度深くため息をついた。
「ゼン、ならば儂らとこんな話をしとらんで先にロイと話して来なさい。突然そのような選択を迫られては困るじゃろうから考える時間をあげなさい」
村長はそう言うと俺にニッコリと、しかし真剣な目で俺を見つめる。
「直接言えぬのであれば儂が代わりに話しても構わぬが、ゼンはそれでも良いのかの?」
「そ、それは……」
「今すぐ帰って話して来なさい。話は儂がまとめておくのでな」
その言葉に、俺はようやくロイに話す決心がついた。
「……わかった。ありがとう、村長」
俺は礼を言って軽く頭を下げると玄関へ走り、そして靴を履くと家へと駆ける。
「でも、いったいなんて切り出せばいいんだ……」
1
お気に入りに追加
4,075
あなたにおすすめの小説
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
便利スキル持ちなんちゃってハンクラーが行く! 生きていける範疇でいいんです異世界転生
翁小太
ファンタジー
無意識に前世の記憶に振り回されていたせいで魔導の森と呼ばれる禍々しい場所にドナドナされたユーラス(8歳)が、前世の記憶をハッキリ取り戻し、それまで役に立たないと思われていた自らのスキルの意味をようやく理解する。
「これって異世界で日本のものを取り寄せられる系便利スキルなのでは?」
そうしてユーラスは前世なんちゃってハンクラ―だった自分の持ち前の微妙な腕で作った加工品を細々売りながら生活しようと決意する。しかし、人里特に好きじゃない野郎のユーラスはなんとか人に会わずに人と取引できないかと画策する。
「夜のうちにお仕事かたずけてくれる系妖精は実在するというていで行こう」
―――――――――――――――――
更新再開しました(2018.04.01)
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる