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第三章 農民が動かす物語

クルク村の人達

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 《ゼンside》

 翌朝の6時頃、村中の家の代表2人が朝の水やりなどを終え次第村長宅に来るよう連絡が来た。
「いったいなんなんすかね?」
 それを伝えに来たテウという奴が聞いてくる。
「まあ行けばわかるだろ」
 対して俺は、理由は知っているが今は黙っておくことにした。
「そっすね。そんじゃ俺は別の家回ってくんでこれで」
 そう言うとさっさと別の家へと走りだす。

「さて、俺もさっさと覚悟決めないとな……」



 それから時間が過ぎて現在8時、各家の代表が全員村長宅に勢揃いした。

「皆集まったの?」
 そう言って村長が部屋を見渡す。
 部屋は広い大部屋で床に座布団を並べており、村長が村人の正面に座る形になっている。
 俺も周りを見渡すと、皆何事があったのかとヒソヒソと話し合っていた。
「では早速じゃが、皆をここに呼んだのはワシじゃが話があるのはワシではない」
 村長がそう言うと更にザワザワと話し声が大きくなる。

「さあゼン君、皆に話す事があるのじゃろう?」

 村長は俺の方を見る。
 そう、今日ここに皆が集まったのは俺が昨夜村長にそうしてもらうよう頼んだからだ。
 だから俺は村長に呼ばれると、村長の左隣に予め用意されていた座布団に座る。

「今日急に呼び出したりして本当に申し訳無いと思っている」
 俺がそう言って頭を下げるとザワザワと話す声が段々と静まってくる。

「まずなんで呼んだのか話す前に1つ、俺は皆に黙っていた事がある」
 そう言うと皆黙って真剣な目を向けてくる。
 俺は事前にしていた覚悟が若干揺らぎそうになったものの、これを言わなければ話が進まない。



「俺の、本当の……というよりこの村に来る前の名前はゼン・バートンと言う」



 そう言った瞬間、この場にいた人の殆どが驚いたように息を呑む。
 この中で唯一平然としているのは昨夜この事を伝えた村長のみである。

「お、おいゼン、お前家名持ってたのかよ」

 誰かの言ったその言葉に7割ほどの人が頷く。
 そもそもこの村に来る者のほぼ全員が家名を持たない者ばかりであり、家名があると言うのは今現在、もしくは過去の場合も多いがその土地や国などから小さい功績の1つでも立てている証である。

「それよりもバートンって、この国一番の商会の名前でしょ?」
「そ、そうだ!この村に来る商人もバートン商会だったよな?」

 そう、バートン商会とはこの国で最も巨大な商会であり、こんな国の南隅から北の先までほぼ全ての販売経路を使って商売をしている家である。

 と、そこで親父さんがギックリ腰で昨日倒れたから代わりに来たらしいコセットが首を捻りながら言った。



「てことはゼンさんはもしかしてバートン家の跡継ぎって奴ですか?」



「……ああ、そうだが少し違う」
「え?だってバートンだったんすよね?あ、もしかして次男とかです?」
 そうグイグイと来るコセット。

「こらコセット!あんたは少し黙りなさい」
 と、そこでコセットの嫁のネネが口を塞ぐ。
「ムグ!?何でだよ!」
「あんた少しぐらいその足りない頭を使いさいよ。家名を捨てて来ることの意味ぐらいあんたにもわかるだろう?」
「あ……」
 そこでようやくコセットも自分の失言に気付いて慌てて口を塞ぐ。
 この世界で家名を失うという事は、それは親に捨てられたかそれなりの理由を持って家を出たかというような、重い理由ばかりなのだ。

「いや、いいんだ。元々その事についても話すつもりだったんだ」
 俺はそこで一度言葉を切って深呼吸をする。

「俺はあの家が嫌いで出てきたんだ、俺の意志でな。だから今の俺には何の関係もない赤の他人だ」

 そう言うと、場の空気がズンと音がしそうな程に重くなる。

 そして暫しの沈黙が続き、村長が痺れを切らしたように俺を睨む。
「で、そんなこと言うためだけに呼んだんじゃないじゃろ?」
 それでようやく俺は本題を切り出すことにした。



「それで、今週末に俺の親父のヴォルト・バートンと母さんが来ることになっている。要件は俺の息子を跡継ぎにするため迎えに来るという事だが……恐らくその時にこの村について色々と悪く言ってまわると思うが、それに耐えて欲しいんだ、頼む!」



 俺はそう言って……土下座をした。

 これだけは、どうしても言わなければならない事だったのだ。
 あいつらは良くも悪くも商人だから何か言われたからと言ってこの村との商売をやめはしないだろう。
 しかし、きっと野菜等の買い取り値段が下げられ、売り物の値段は国の端と言う事を言ってこの村だけ値段を上げることぐらいはするだろう。
 それも国に咎められない範囲くらいで収めるはずなので大きな問題にもならないだろうが、それも積もり積もれば段々と経済的に苦しくなるはずだ。

 そして俺の土下座で場がざわつく中、一人の男が呆れたように言った。



「……で、それだけ?」

 それは、今朝俺の家に伝達に来たテウの言葉だった。
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