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第三章 農民が動かす物語

練習(2)

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「ふむ、そろそろ次の練習に行こう」
「あれ、もう次に行くの?」
 魔法の練習を始めてから5日目、魔力の取り込みと放出が昨日ようやく安定してきたばかりなので、もう次の練習に行って大丈夫なのかと心配になる。
 それに取り込める魔力量は幾ら取り込みと放出が上手く行っていたとしても、保有魔力量の上限の10倍程取り込んだ時点で魔力酔いが始まるのだ。

「でも魔力量を増やす為の練習でもあったんでしょ?」
 これは一昨日教えて貰ったことだ。
「次の練習とは言ってもそう変わるものではないのでな、心配する事は無いぞ」
「それなら大丈夫かな。どんな練習なの?」

「杖から魔力を取り込んで左手に魔力を流す手順までは昨日までと同じだ。変わるのは魔力をただ空中に放つのではなく魔法を使うのだ」

「あ、確かにそれならあんまり変わらな……いこと無くない?」
 今コンは極々当たり前のように言ったけど、魔力の操作が上手くても魔法を上手く使えるかはまた別の話なのだ。
 ただ魔力を操作するだけなら流れをイメージするだけで済むけど、魔法はそのイメージを保ったまま起こしたい現象のイメージもしなければならないのだ。
「ふむ、だが魔力操作ばかりしていても上達することは無いぞ?」
「それはそうだけど……」
「大丈夫だ、そう難しい魔法を使えと言う訳ではない。それに魔法の暴発なら我が防ぐ」
「う~ん……コンが大丈夫って言うなら大丈夫だよね」
 まだちょっと不安だけどコンに杖を出してもらう。

「ただやはりなるべく危険は減らしたいのでな、簡単な治癒魔法をこの花にかけるようにするぞ」

 コンはそう言って雑草を取り出す。
「花?」
「花だ」
 どこからどう見ても細長い葉の雑草でしかないその草に首を傾げる。
「これは『治癒草』と言ってな、見た目は雑草と変わらぬが治癒系統の魔法をかける事で花を咲かせる特殊な花なのだ。育てば上位回復薬の材料にもなるぞ」
「へえぇ、上位回復薬ってことはハイポーション?」
 ポーションは1つ銅貨1枚で売れるのだが、ハイポーションは1つで銅貨50枚もする高級品だ。
 なので凄いなと思ってその雑草に見える花を見ていたのだが、コンは不思議そうな顔をする。



「ハイポーションの材料は陽のあたる場所に群生する生命草の変異種の『陽命草ようめいそう』だ。治癒草はその上、グランドポーションの材料になる」



「え、えぇ!!グランドポーション!?」

 今コンはごく当たり前のように言ったけど、グランドポーションはハイポーションの1つ上のハイパーポーションの更に上、一本で安くても金貨10枚にもなる超高級品だ。
 かなりの資産を持つ貴族、もしくはダンジョンの奥深くまで進む事の出来る実力のある冒険者がお守り代わりに持ち歩くような物だ。
 その効果は即死さえしなければどの様な怪我もたちまち回復させてしまう物として知られている。

「え、でも材料って秘密で、見つからなくて、高くて、えええ!?」
 あまりの衝撃に花を持つ手が震える。
「そう珍しい物では無いのだが」
「え、でも、グランドポーションだよ!?」

「ロイよ少し落ち着け。治癒草は魔力が多い程よく日が射し込む森の中で育つ草でな、まずこの様な見た目からそうと気付ける者はそう居ないのだ。その上光魔法を沢山浴びなければ花をつける事もないから素材とする場合には膨大な魔力を注ぎ込む必要があるのだ。ただの雑草に光魔法を使う者はそう居ないから気づけないだけだ」
 
「でも、数そんなに多くなかったりするんじゃ……」
 グランドポーションは薬の精製と販売を行う家が代々その作り方を引き継いで行くのみなので、そもそも材料がこの花であることを知る人は殆どいない。
「ロイのその様子だと随分珍しい物となっているようだが、恐らくグランドポーションを売る事による利益を独占したいが為に秘密にしているのでは無いだろうか?」
「あ、確かにそうかも」
 それを聞いて頷くと、コンは更に付け加える。

「それに、そもそも花の蕾みを出す時点で今のロイの魔力量では1週間はかかる。そんな物を広めても花を開くまでに消費する魔力量が多過ぎて普通の人ではそうそう量産も出来んだろう」

「そんなに魔力要るの?」
「そうだ。今回は魔法を使う練習に丁度良いと思って用意したのだが……続きは練習を終えてからにしよう」
「あ、うん。それじゃあ杖をお願い」



 それからコンと魔法の練習をした結果、初日の今日は魔力を魔法として発現出来たのは3割ほどだった。
「難しい……」
「ロイはこれまで殆ど魔法を使ってこなかったのだ、これだけ出来れば十分な結果だ」
「そうなの?」
「ああ」
「そっか」
 コンが言うならそうなんだろうと納得し、僕は空を見る。
「それじゃあ家に帰ろうか」
「うむ」
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