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第四章 分岐点

不寝番

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 ご飯を食べた後、イツキさんは鍋を収納して四脚と網も片付けた。
 そうして物を片付けたあとは薪を増やして小さな火を灯したまま話を始める。
「そんで夜の話だが、基本的に人里とかで無ければ誰かが不寝番、もしくは時間を決めてローテーションで見張りをしないと駄目だな」
「それはやっぱり、動物や魔物のためですか?」
「そうだ。この辺の事は学校で習ったろ?まあ魔術を使った防壁やセンサーを使えば別だけど、そういう魔導具は高いからな」
「そんなのもあるんですね」
「まぁな。とはいえ正直あんたらに不寝番とか必要なのかは疑問なところだが……コンは居るし、そうでなくともそのユンだっけ?が、狼王で野生暮らしに慣れてるなら寝てても何か近付いたら反応するだろうし、やるだけ無駄だろうなぁ」
 そう言って溜息を吐くイツキさんはどこか遠い目をしていた。
「大変そうですね」
「ああ、あれはヤバかった。不寝番は絶対一徹だけにしろよ。二徹すると頭がクラクラとするし、三徹もやれば歩きながらでも意識が飛ぶというか飛んだからなぁ」
「そこまでしたんですか?」
「大丈夫だったんですか?」
 僕はなんでそうなったんだろうと首を傾げ、ソフィは心配そうにイツキさんに問いかける。
「まあちょっと、自分の限界を知ろうとしてな」
 そう言いながらも目が暗がりでもハッキリわかるくらいに泳いでいたのでたぶん違うんだろうとは思ったけれど、追求するのはやめておくことにした。
「それはともかくだな、今日はその不寝番をやるかやらないかだけは聞いときたい。今日は俺が不寝番をするし、お前らには要らんだろうからやる必要はないけどまあ、これも一つの経験としてやっとくのは悪くないと思うけど、どうする?」
 そう言われて少しだけ悩んで、頷いた。
「やらせてください」
「んじゃ今夜は俺と徹夜だな。ああでも無理そうなら途中でも寝てくれて構わねぇからな?徹夜するには慣れがいるからな、無理しちゃ身体壊す」
「わかりました」

 それから暫くキレイな星空の下でワイワイ盛り上がった後、僕とイツキさん以外はテントに入って寝てしまった。
 ユンはソフィと一緒に寝るみたいだけど、コンは平気だからと僕の隣で一緒に居てくれるらしい。
「んじゃ不寝番の心得はわかってるな?」
 ソフィ達が寝始めた頃より弱めの焚き火を囲って、イツキさんが聞いてくる。
「はい。眠気に負けないこと、視線をちゃんと張り巡らすこと、耳を澄ませて異変を早く察知すること、何かあったら大声を出して皆を起こすこと、ですよね」
「そうだ。まあひっそりと誰かに伝えるという例も無くはないが、稀だからそれに従えばまず間違いはない」
「わかりました」
 イツキさんは満足そうに頷くと「ところで」と言った。
「お前は徹夜なんてすることあんの?ああいう村だとまずしたこと無いって奴は多いからな」
「えっと、何度かあります」
 そういうと、イツキさんは驚いたように目を見開いた。
「へえぇ、お前みたいなのはしたことねぇだろって思ったんだが、意外だな」
「レン兄と、あとはコールとかの所に泊まりに行った時とかにですけど。夜中まで遊んで気が付いたら朝だったことと、あとはコールが耐久レースって言って負けた人が行商が来たら銅貨一枚分奢りってことで、その日は男子全員ウトウトしてました」
 あははと苦笑すると、イツキさんも頷いて苦笑いした。
「遊んでたら気づいた時には空が白んでるもんだしなぁ、まあ不寝番だとそうはいかんけどな」
「あ、そうですね」

 話しながらも周囲の警戒を怠らないのは中々難しくて、何度か警戒してないと指摘されながら過ごした夜はそれなりに楽しかった。
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