裸の瞳

佐治尚実

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第三章

4.フィルターなしの瞳※

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 翌週の昼から始まったセックスに、大地は溺れきっていた。もうここから出たくない、出さないでと悠成を誘惑した。

「僕をめちゃくちゃにして」

 一日休みを取った悠成と寝室で体を合わせ、彼を挑発した。悠成をその気にさせるのは裕貴よりも簡単だった。その代わり、悠成はしつこかった。ベッドのフレームから伸ばした赤い縄で手首を拘束されそうになり、次はベッドの足と結んだ紐で足首を固定されようとしていた。さすがの大地も後悔して逃げた。

「何してるの、追いかけっこ?」

 ベッドから落ちて、尻もちをついた。尻から太ももにかけて、熱い液体が垂れる。

「俺を挑発しといて、それくらいで音を上げるのって、ひどいね」

 悠成がくすぐったそうに笑う。
 床をはって寝室を出ようとしたら、足首をつかまれる。後ろに引き戻され、尻をしたたかに叩かれる。

「っぅぁあ」
「大地、足も結んであげるね、だめだよ、俺から逃げちゃ」

 木の板の上で脱力した。うつ伏せで寝ていたら、悠成がのしかかってくる。尻たぶを割られ、ぽっかりと開いた蕾に怒張した雄を一気に突き差してきた。

「あ、あ、う――っ! うぁあああ……っいい、いい」

 大地のよだれで濡れた床に顔を押しつけ、爪を立て、尻を後ろに突きだす格好をした。深く押し入ってくる悠成の雄をしっかりと受けとめた。

「っぁあひぃ、……ま、また、ああっ、狂う、い、いく、いっちゃう」
「大地、いっぱい感じてくれてうれしいよっ、っうう、俺も出すよ、のんでね」

 大地は精一杯頷いた。びりびりと電気が背筋を駆け抜ける。そのとき、大地の全身が硬直し、ぶるぶると震えだし、呼吸が荒くなり、背中を反らしてオーガズムに達した。

「ああ……ああ」
「ぎゅうってしてるよ、大地大地、かわいいよ、愛してるよ、つ」

 大きな脈動と共に、胎内の奥深くで精液が噴出した。

「あっ、ぁ」

 それを肉壁に馴染ませようと、律動が再開される。

「まだだよ、俺を満足させてよ」
「ああっ、だ、だめ、い、いいいやだぁああ、だ、だめっ、いややぁああっ……」

 大地は断末魔の叫び声を上げた。ひたすら後ろの刺激だけで達していた。大地の性器はしおれていていた。もはや排尿をするだけの肉の塊だった。

 夜になると、ホームでの試合を終えた裕貴が寝室に現れる。

「大地、俺がほしいだろう」

 裕貴が裸になり、大地の頬に汗臭い雄をこすりつけてくる。大地はそれを頬張り、竿の血管を舌で感じながら舐め上げた。唾液の音を響かせ、悠成に後ろを突かれながら、大地は昂揚感に浸っていた。口腔内で精液を叩き込まれて、一滴残らず飲み込んだ。

「いい子だ、うまいか」

 飲みきったよ、と裕貴に舌を見せた。

「こっちも忘れないでね」
「はい……ん、ぼ、僕のお腹に、ください……」

 度重なる歓喜の渦に巻き込まれた大地は、訳の分からないことを口走った。地獄と天国が交錯し、浮かんだあと限界まで上昇し、一気に墜落してたたきつけられる。全身がバラバラになり、大地は頭のなかが真っ白になっていくのを感じた。

  ベッドの軋む音がする。荒い息が顔にかかる。温かくドロリとしたものが胎内に流れてくる。裕貴か悠成としているのだろうか。下半身が熱く、胎内では誰かの雄を受け入れている。この形は裕貴だろう。太陽の匂いだ、グレープフルーツの香りだ、と鼻をうごめかす。

「大地、気持ちいいか」

 目を開けると、裕貴が笑う。

「うん、っあ、ぅ」

 もう動けないのに、裕貴は正面からがっちり拘束してくる。何年たっても心のほうが慣れない。体は従順に裕貴を受け入れているのに、彼の太陽のような清潔さを直視できないでいる。

「大地はかわいいな、ずっとこの家から出なくて良いからな、外は危ないから、大地を襲う輩から守れない、俺たちを安心させてくれ」

 重い腰の突き上げは止まらない。遠慮なんてしていない腰使いをする裕貴が愛おしくてたまらない。もう大地は逃げないのに、裕貴はどこまで臆病なのだろう。

「あ、ああっ、あっぃ、ぅ、んんん」
「おいしそうだな」

 裕貴の肩にかけていた、ふくらはぎに歯を立てられた。

「っい、いっ」
「うまい、マジで大地はどこまでも甘いんだな」

 それだけで中イキしてしまった。

「……あっ」
「締め付けるなよ、食われるだろうが」

 裕貴の汗が滴り落ちる。彼は激怒したみたいに腰を強く打ちつける。達したばかりの大地の体には酷な快楽だった。

「っ、ひぃい、いいい」

 足首に血が垂れる。横で見ていた悠成がそれを指ですくって口に含む。キャンディをしゃぶるようになめている姿は淫猥だ。

「おいしいよ大地」

 地獄の責め苦に身悶えていた大地は、今は言いようのない喜びに変わった。悠成の微笑はちらりと見える星の瞬きのように思えた。なんという美しさだろう。忘れしてしまわないように、目を見開いた。

「大地、俺の方を見ろよ」

 裕貴に頬の肉をつままれる。大地は裕貴を見上げた。夜の色が彼の顔を隠しても、太陽のまぶしさは知っている。この目が焼きただれてもいい、大地は幸せだった。

「大地の目、きれいだよね」

 悠成が言うと、部屋に月が差し込む。

「ああ、そうだな」

 悠成と裕貴で話が合うのは珍しかった。

「大地の瞳は裸だから、すべてが美しく見えるんだ、フィルターなんてかかっていない、お前はその目で俺たちを見てくれ、きっと現実よりマシに映っているだろうね」

 でも実際に世間にはそんな風に見えてなくてもね、と悠成は小さな声で付け足した。

 悠成の言葉は、クローゼットにあった走り書きと似ている。悠成の書いた歌でもそんな風に歌っていた。大地はあの曲が大好きだ。

「大地は無垢そのものだ」

 裕貴も話に乗ってきた。

 大地はすっと頭のもやが消えた。もう迷わなかった。

「裕貴は太陽、悠成はお星さま、ずっと僕を見ていて」

 二人がいてくれたら、そこには光の道が差し込む。


  終わり
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