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第一章
12.確認の連絡
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裕貴のチームが日本シリーズを二年連続で制した。決勝戦の夜、大地は家族と共に球場で観戦した。悠成も一緒だった。深夜に裕貴から呼び出された。悠成が「行かないほうがいい」と注意するが、大地は「悠成も行こうよ」と指定されたホテルに向かった。部屋に入ってから、三人で酒を飲んだ。そこで意識は途絶えた。
携帯電話の着信音で、大地は目を覚ました。重いまぶたを開く。いつの間にか自宅に帰っていたようだ。柔軟剤の香りがするベッドで寝ている、と日の光で目をすがめた。ベッドのサイドテーブルに置かれた携帯電話が、けたたましく音を鳴らしたかと思えば途切れて、数秒置かずに騒ぎ出す。ぼんやりとした頭が徐々に覚醒してゆく。出なきゃ、と頭では思うも、体が言うことを聞いてくれない。
隣で寝ていた悠成が、大地から体を離して起き上がる。ふわりと柑橘系の香りが大地の鼻孔をくすぐる。悠成のシャンプーだろう。大地自身、体液や精液で汚れているはずの肌が随分とさっぱりしているのを感じた。昨夜はしなかったのだろうか。それとも、この体のだるさを思えば、悠成が風呂に入れてくれたのだろう。
細身だが筋肉質の裸体を折りたたんだ悠成が、携帯電話をつかむ。次に渋い顔をして舌打ちをする。大地は目線だけ、「誰から」と問いかける。喉まで言葉が出かかっているのに、それは嘘みたいに声にならなかった。何度も噛んだであろう跡の残る唇を震わせただけだ。昨日は一日中、叫び、喘いだようだ。関節が自由に曲がらない。全身の皮膚がうっ血の跡でヒリヒリして、尻にはいつにもまして異物感が残っている。
「宮川から」
悠成の声音は暗い。
大地は自然と顔がほころび、訳もなく目が潤んだ。嬉しいのに悲しかった。
「出たらだめだよ」
どうして、と聞きたいのに声を出せない。だから唇を閉じて必死に泣かないよう、悠成の背後にある窓を見て気を逸らす。ルーフバルコニーを見渡せる長方形の窓は白く発光していた。いつだって大地の気持ちとはそう反して、外の世界は美しかった。
「出て」
どうにか出せた声はしゃがれていて、自分ではないみたいだ。
「大地、どうしても?」
悠成は無精ひげの生えた口あたりに微笑を浮かべた。それが沈んだ顔つきになる。大地は肯定するように口元を上げて見せた。
悠成は沈うつな顔で、大地の耳元に携帯電話をあてた。日差しのちらちらしている十一月の午後に、大地は腕を伸ばして、携帯電話を持つ悠成の手首に触れた。どうしてこんなに自分を愛してくれるのか、いまでも分からない。それでも、彼には穏やかであってほしかった。
大地が笑うと、
『どうしてすぐに出ないんだ』
裕貴の低い声が聞こえた。
ふいに、大地の顔の筋肉がこわばり、すぐに思い返して平静な顔に戻った。ベッドに預けていた体が重たく沈んだ。
「ごめん、喉の調子が悪くて、寝てた」
『ガラガラだな、無理はするな』
電話の向こうで裕貴が愉快そうに声を上げている。その反応に大地は首をすくめる。悠成に抱き潰された、なんて言えるわけがない。このタイミングで裕貴に告白しようかと考えた。
悠成が真剣な顔で大地を見ている。裕貴に自分たちの関係を教えても良いかどうか、一度も悠成と話し合っていない。そう思うだけで、体の中が空洞になったみたいに虚しかった。大事なことから逃げていた。
大地が言葉に詰まっていたら、
『家に星野はいるのか』
悠成にも聞こえていたのだろう、彼は首を横に振って『いない』と口の動きだけで答えた。どうして嘘をつくのだろう、と大地は眉を上げた。
「いるかな、待っていてね」
『いい、寝てろ、俺の用件を伝える』
裕貴が話を切り出した。どうやら今月中に退寮するようで、引っ越し祝いも兼ねて彼の家に誘われた。大地は口約束をして電話を切った。それで終わったはずだった。
携帯電話の着信音で、大地は目を覚ました。重いまぶたを開く。いつの間にか自宅に帰っていたようだ。柔軟剤の香りがするベッドで寝ている、と日の光で目をすがめた。ベッドのサイドテーブルに置かれた携帯電話が、けたたましく音を鳴らしたかと思えば途切れて、数秒置かずに騒ぎ出す。ぼんやりとした頭が徐々に覚醒してゆく。出なきゃ、と頭では思うも、体が言うことを聞いてくれない。
隣で寝ていた悠成が、大地から体を離して起き上がる。ふわりと柑橘系の香りが大地の鼻孔をくすぐる。悠成のシャンプーだろう。大地自身、体液や精液で汚れているはずの肌が随分とさっぱりしているのを感じた。昨夜はしなかったのだろうか。それとも、この体のだるさを思えば、悠成が風呂に入れてくれたのだろう。
細身だが筋肉質の裸体を折りたたんだ悠成が、携帯電話をつかむ。次に渋い顔をして舌打ちをする。大地は目線だけ、「誰から」と問いかける。喉まで言葉が出かかっているのに、それは嘘みたいに声にならなかった。何度も噛んだであろう跡の残る唇を震わせただけだ。昨日は一日中、叫び、喘いだようだ。関節が自由に曲がらない。全身の皮膚がうっ血の跡でヒリヒリして、尻にはいつにもまして異物感が残っている。
「宮川から」
悠成の声音は暗い。
大地は自然と顔がほころび、訳もなく目が潤んだ。嬉しいのに悲しかった。
「出たらだめだよ」
どうして、と聞きたいのに声を出せない。だから唇を閉じて必死に泣かないよう、悠成の背後にある窓を見て気を逸らす。ルーフバルコニーを見渡せる長方形の窓は白く発光していた。いつだって大地の気持ちとはそう反して、外の世界は美しかった。
「出て」
どうにか出せた声はしゃがれていて、自分ではないみたいだ。
「大地、どうしても?」
悠成は無精ひげの生えた口あたりに微笑を浮かべた。それが沈んだ顔つきになる。大地は肯定するように口元を上げて見せた。
悠成は沈うつな顔で、大地の耳元に携帯電話をあてた。日差しのちらちらしている十一月の午後に、大地は腕を伸ばして、携帯電話を持つ悠成の手首に触れた。どうしてこんなに自分を愛してくれるのか、いまでも分からない。それでも、彼には穏やかであってほしかった。
大地が笑うと、
『どうしてすぐに出ないんだ』
裕貴の低い声が聞こえた。
ふいに、大地の顔の筋肉がこわばり、すぐに思い返して平静な顔に戻った。ベッドに預けていた体が重たく沈んだ。
「ごめん、喉の調子が悪くて、寝てた」
『ガラガラだな、無理はするな』
電話の向こうで裕貴が愉快そうに声を上げている。その反応に大地は首をすくめる。悠成に抱き潰された、なんて言えるわけがない。このタイミングで裕貴に告白しようかと考えた。
悠成が真剣な顔で大地を見ている。裕貴に自分たちの関係を教えても良いかどうか、一度も悠成と話し合っていない。そう思うだけで、体の中が空洞になったみたいに虚しかった。大事なことから逃げていた。
大地が言葉に詰まっていたら、
『家に星野はいるのか』
悠成にも聞こえていたのだろう、彼は首を横に振って『いない』と口の動きだけで答えた。どうして嘘をつくのだろう、と大地は眉を上げた。
「いるかな、待っていてね」
『いい、寝てろ、俺の用件を伝える』
裕貴が話を切り出した。どうやら今月中に退寮するようで、引っ越し祝いも兼ねて彼の家に誘われた。大地は口約束をして電話を切った。それで終わったはずだった。
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