21 / 29
20
しおりを挟む
力なく言葉を紡ぐカノン。
「彼女は記憶を失ったままなのに、昔の事を無理に思い出させるのが忍びなくてな・・・それに、突然『西の王子』などと聞かされて訳も分からず困惑するだけだろう。拒絶されるかもしれない・・・そう考えたら、自分から名乗り出ることも説明することも出来なかった」
彼のエレーヌに対する思いを聞けば聞くほど、メリダは昨日まで敵だと思っていたはずのこの一途な男の願いを、どうにか成就させてやりたいと思うようになっていた。
幾日か前に、『義妹が泣いた』とエレーヌから聞いたときは、とんでもない狸だと思ったはずなのに、今ではその真っ直ぐな思い故に堪えきれず流れてしまった涙なのだろうと理解し、彼に同情心すら湧いてくる。
「そういうお考えでしたか。けれど、その心配は無用でしょうね。お嬢様ははっきりと記憶を思い出しているわけでは無いようですが、『西の王子』が迎えに来られたとお知りになったら喜ばれるに違いありません」
「何故、そう言える?」
「私は自分の出自について意識することもなく、おとぎ話として当家に伝わっていたお二人の話をお嬢様が幼いころから聞かせていました。エレーヌ様は、その話を特別気に入り、自分にも『西の王子』のような方が現れないだろうかと折に触れて仰っておられました。
それに、あなたが義妹に扮して、事情があるとはいえあれだけの悪行を働いたにも関わらず、お嬢様はあなたに対して全く嫌悪感を抱いておらず、寧ろかなり好意的なようでしたし・・・意識上はどうあれ、無意識的にはあなたの正体を感じ取っているのでは?」
「それは、エレーヌは記憶を取り戻す準備が出来ていると受け取っても良いのだろうか?」
切実な表情でメリダに問うカノン。
メリダは、自分の勝手な考えではあるがと付け加えたうえで考えを述べた。
「・・・そこまでは言いきれませんが、あなたがこの屋敷にやってきてからというもの、やはりどこか共鳴されるようなところがあるのか・・・お嬢様は以前にも増してお二人の過去である、あの話に固執されるようになりました。
ご自身でもその心境の変化が気になっているようで、近頃は『架空の話にそこまで入れ込むなど、自分は精神に異常をきたしているのでは?』とお考えになってもいるようなのです・・・」
「それは・・・」
「そういった具合ですから、このまま隠し続けるよりも、いっそあなたから真実を告げるなり何なりしていただいて、ご自身の過去について思い出していただいた方が、お嬢様の為にも良いと思うのです」
それを聞いたカノンはあらたまった表情で、メリダに言った。
「そうか・・・ならば、お前に一つ頼みたい事がある」
「何でしょう?出来ることであれば、何なりと」
「眠っているエレーヌに、お前の一族が聖女から授けられた『祝福』の力の一部を流しこんでみてくれないか?
その方が私が話をするよりも、『実感』してもらうには確実だ。
魔力や聖女の法力には、記録や感情を蓄積する性質があるのは知っているか?
元々彼女が持っていた力の一部を本人に還元すれば、先ほどお前が司祭の記憶を見たように、彼女もかつての記憶を自然に思い出すはずだ。力の使い方は私が教えよう・・・」
「彼女は記憶を失ったままなのに、昔の事を無理に思い出させるのが忍びなくてな・・・それに、突然『西の王子』などと聞かされて訳も分からず困惑するだけだろう。拒絶されるかもしれない・・・そう考えたら、自分から名乗り出ることも説明することも出来なかった」
彼のエレーヌに対する思いを聞けば聞くほど、メリダは昨日まで敵だと思っていたはずのこの一途な男の願いを、どうにか成就させてやりたいと思うようになっていた。
幾日か前に、『義妹が泣いた』とエレーヌから聞いたときは、とんでもない狸だと思ったはずなのに、今ではその真っ直ぐな思い故に堪えきれず流れてしまった涙なのだろうと理解し、彼に同情心すら湧いてくる。
「そういうお考えでしたか。けれど、その心配は無用でしょうね。お嬢様ははっきりと記憶を思い出しているわけでは無いようですが、『西の王子』が迎えに来られたとお知りになったら喜ばれるに違いありません」
「何故、そう言える?」
「私は自分の出自について意識することもなく、おとぎ話として当家に伝わっていたお二人の話をお嬢様が幼いころから聞かせていました。エレーヌ様は、その話を特別気に入り、自分にも『西の王子』のような方が現れないだろうかと折に触れて仰っておられました。
それに、あなたが義妹に扮して、事情があるとはいえあれだけの悪行を働いたにも関わらず、お嬢様はあなたに対して全く嫌悪感を抱いておらず、寧ろかなり好意的なようでしたし・・・意識上はどうあれ、無意識的にはあなたの正体を感じ取っているのでは?」
「それは、エレーヌは記憶を取り戻す準備が出来ていると受け取っても良いのだろうか?」
切実な表情でメリダに問うカノン。
メリダは、自分の勝手な考えではあるがと付け加えたうえで考えを述べた。
「・・・そこまでは言いきれませんが、あなたがこの屋敷にやってきてからというもの、やはりどこか共鳴されるようなところがあるのか・・・お嬢様は以前にも増してお二人の過去である、あの話に固執されるようになりました。
ご自身でもその心境の変化が気になっているようで、近頃は『架空の話にそこまで入れ込むなど、自分は精神に異常をきたしているのでは?』とお考えになってもいるようなのです・・・」
「それは・・・」
「そういった具合ですから、このまま隠し続けるよりも、いっそあなたから真実を告げるなり何なりしていただいて、ご自身の過去について思い出していただいた方が、お嬢様の為にも良いと思うのです」
それを聞いたカノンはあらたまった表情で、メリダに言った。
「そうか・・・ならば、お前に一つ頼みたい事がある」
「何でしょう?出来ることであれば、何なりと」
「眠っているエレーヌに、お前の一族が聖女から授けられた『祝福』の力の一部を流しこんでみてくれないか?
その方が私が話をするよりも、『実感』してもらうには確実だ。
魔力や聖女の法力には、記録や感情を蓄積する性質があるのは知っているか?
元々彼女が持っていた力の一部を本人に還元すれば、先ほどお前が司祭の記憶を見たように、彼女もかつての記憶を自然に思い出すはずだ。力の使い方は私が教えよう・・・」
1
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる