23 / 29
22
しおりを挟む
幾日か経った夜。
メリダは、カノンから教えられた通り、ベッドで眠っているエレーヌの手を取ると、自分の中心から湧き出している温かな泉の一部が彼女に注ぎ込まれるように、強くイメージした。
◇
朝の支度のために、部屋に入ってきたメリダに、すでに目が覚めていたエレーヌは駆け寄った。
「メリダ・・・私、頭がおかしくなってしまったのではないかと思われるかも知れないけれど・・・どうか落ち着いて聞いてちょうだい!」
「はい、お嬢様」
混乱した様子のエレーヌとは対照的に、落ち着いた様子のメリダ。
「私、夢を見たの!でも、夢じゃなくて・・・メリダが聞かせてくれた物語が本当の事だったと解って・・・西の王子様は本当に居て、不思議な事にカノンと同じ名前でね、それで私が・・・聖女だって・・・」
エレーヌは嬉しいような、悲しいような何とも言えない表情をしており、その瞳には涙が湛えられていた。
メリダはすぐに昨晩の出来事が成功したのだと分かった。
「記憶を取り戻されたのですね」
「え?記憶?メリダは私が今言っている事を変だとは思わないの・・・?」
「はい。実は私は少し前に・・・西の王子に会ったのです」
エレーヌはハッとしたように目を見開いた。
「・・・!殿下は今どこにいらっしゃるの?すぐにお会いしたいわ!!」
メリダは優しく微笑んだ。
「お約束があるので細かい事は申し上げられませんが・・・かの方は、いつもお嬢様のおそばにおられましたよ。そして、近いうちにお迎えに来られるはずです」
エレーヌが聖女の力を完全に取り戻せば、カノンが変装している意味など忽ち無くなってしまうはずだったが、彼女の様子を見る限り、無邪気に名前が同じだとはしゃいでいるだけで、義妹の正体が西の王子なのだと気づいているようには見えなかった。
彼女は無意識に、自分が再び聖女の力を持つことを拒絶しているのだろう。
昨晩、自らが借り受けているらしい『祝福』の力を、元の持ち主の聖女であるエレーヌに全て返そうと思ったメリダだったが、ある一定の上限を超えると、それ以上彼女に力を移すことができなかった。
結局、注ぎ込めたのは、記憶を取り戻すためだけに必要な僅かな力だけだった。
メリダは、カノンから話を聞いた際、彼がエレーヌに過去を思い出させることを渋っていた為に、状況が複雑化してしまったのだと感じただけに、いつまでもエレーヌに真実を告げなかった彼をただの臆病な腰抜けではないか、とどこかで思っていた。
だが、力を返そうとしても、眠っているにも関わらず、それを拒絶するようなエレーヌの様子を実際に見ると、それだけでエレーヌが過去に聖女として過酷な体験をしたのだろうという事が伝わってきた。
メリダは、カノンがエレーヌに無理に記憶を取り戻させたくなかったと言ったのは、彼女に対する最大限の配慮で、優しさだったのだと、今更ながら感じたのだった。
こんな状況ゆえに、自分を使ってエレーヌの記憶を戻すという選択をしたが、もしも輿入れの件が無かったとしたら、恐らく彼はエレーヌの記憶が自然に戻るまで、いつまででも自分の気持ちを押し殺して待ち続けるつもりだったのだろうと、メリダは思った。
お嬢様も仰っていたけれど、優しいくせに言葉が足りない・・・。
本当にあの方は誤解されやすい方ですね・・・。
メリダは、カノンから教えられた通り、ベッドで眠っているエレーヌの手を取ると、自分の中心から湧き出している温かな泉の一部が彼女に注ぎ込まれるように、強くイメージした。
◇
朝の支度のために、部屋に入ってきたメリダに、すでに目が覚めていたエレーヌは駆け寄った。
「メリダ・・・私、頭がおかしくなってしまったのではないかと思われるかも知れないけれど・・・どうか落ち着いて聞いてちょうだい!」
「はい、お嬢様」
混乱した様子のエレーヌとは対照的に、落ち着いた様子のメリダ。
「私、夢を見たの!でも、夢じゃなくて・・・メリダが聞かせてくれた物語が本当の事だったと解って・・・西の王子様は本当に居て、不思議な事にカノンと同じ名前でね、それで私が・・・聖女だって・・・」
エレーヌは嬉しいような、悲しいような何とも言えない表情をしており、その瞳には涙が湛えられていた。
メリダはすぐに昨晩の出来事が成功したのだと分かった。
「記憶を取り戻されたのですね」
「え?記憶?メリダは私が今言っている事を変だとは思わないの・・・?」
「はい。実は私は少し前に・・・西の王子に会ったのです」
エレーヌはハッとしたように目を見開いた。
「・・・!殿下は今どこにいらっしゃるの?すぐにお会いしたいわ!!」
メリダは優しく微笑んだ。
「お約束があるので細かい事は申し上げられませんが・・・かの方は、いつもお嬢様のおそばにおられましたよ。そして、近いうちにお迎えに来られるはずです」
エレーヌが聖女の力を完全に取り戻せば、カノンが変装している意味など忽ち無くなってしまうはずだったが、彼女の様子を見る限り、無邪気に名前が同じだとはしゃいでいるだけで、義妹の正体が西の王子なのだと気づいているようには見えなかった。
彼女は無意識に、自分が再び聖女の力を持つことを拒絶しているのだろう。
昨晩、自らが借り受けているらしい『祝福』の力を、元の持ち主の聖女であるエレーヌに全て返そうと思ったメリダだったが、ある一定の上限を超えると、それ以上彼女に力を移すことができなかった。
結局、注ぎ込めたのは、記憶を取り戻すためだけに必要な僅かな力だけだった。
メリダは、カノンから話を聞いた際、彼がエレーヌに過去を思い出させることを渋っていた為に、状況が複雑化してしまったのだと感じただけに、いつまでもエレーヌに真実を告げなかった彼をただの臆病な腰抜けではないか、とどこかで思っていた。
だが、力を返そうとしても、眠っているにも関わらず、それを拒絶するようなエレーヌの様子を実際に見ると、それだけでエレーヌが過去に聖女として過酷な体験をしたのだろうという事が伝わってきた。
メリダは、カノンがエレーヌに無理に記憶を取り戻させたくなかったと言ったのは、彼女に対する最大限の配慮で、優しさだったのだと、今更ながら感じたのだった。
こんな状況ゆえに、自分を使ってエレーヌの記憶を戻すという選択をしたが、もしも輿入れの件が無かったとしたら、恐らく彼はエレーヌの記憶が自然に戻るまで、いつまででも自分の気持ちを押し殺して待ち続けるつもりだったのだろうと、メリダは思った。
お嬢様も仰っていたけれど、優しいくせに言葉が足りない・・・。
本当にあの方は誤解されやすい方ですね・・・。
1
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間
夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。
卒業パーティーまで、残り時間は24時間!!
果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?
義姉でも妻になれますか? 第一王子の婚約者として育てられたのに、候補から外されました
甘い秋空
恋愛
第一王子の婚約者として育てられ、同級生の第二王子のお義姉様だったのに、候補から外されました! え? 私、今度は第二王子の義妹ちゃんになったのですか! ひと風呂浴びてスッキリしたら…… (全4巻で完結します。サービスショットがあるため、R15にさせていただきました。)
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
【完結】運命の番じゃないけれど
凛蓮月
恋愛
人間の伯爵令嬢ヴィオラと、竜人の侯爵令息ジャサントは幼い頃に怪我を負わせた為に結ばれた婚約者同士。
竜人には運命の番と呼ばれる唯一無二の存在がいる。
二人は運命の番ではないけれど――。
※作者の脳内異世界の、全五話、一万字越の短いお話です。
※シリアス成分は無いです。
※魔女のいる世界観です。
男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。
二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
私、異世界で獣人になりました!
星宮歌
恋愛
昔から、人とは違うことを自覚していた。
人としておかしいと思えるほどの身体能力。
視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。
早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。
ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。
『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる