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「こんな年にもなってどうかと思うけれど、またあのお話を聞かせてくれないかしら・・・悲しいお話ではあるけれど、最後に少しだけ希望が持てるようなところが好きなの」

今日は満月の夜だ。

子供のころから、満月になると胸がざわついて眠れなくなるエレーヌ。

そんなエレーヌのために、彼女が眠るまでメリダは様々な話をしてくれたが、その中でも特にエレーヌが一番気に入っている話があった。

『東の聖女と西の王子』という話だ。

メリダの家に伝わる話で、本としては存在しないものらしい。

昔々のこと、心優しい東の聖女は、西にある魔族の国の王子と恋に落ちた。

東の国の王は、西の国を狙っていたが、まるで武神のような強さを誇る西の王子の存在があっては、戦を仕掛けたとしても敗北は必至だった。

そこで、東の王は、西の王子が聖女にだけは心を許しているということを利用し、彼女に西の王子を騙し討ちにするようにと命令する。

しかし、聖女はそれを拒んだ為、怒った王は彼女を人質にして西の王子を従わせようと画策する。

彼の重荷になることを良しとしなかった聖女は、自ら命を絶ってしまう。

西の王子が知らせを聞いて駆けつけた時には、彼女はすでにこと切れてしまっていた。

悲しむ王子だったが、聖女にいつも付き従っていた司祭から彼女の最後の手紙を渡される。

手紙には、『また必ず転生してあなたの前に現れるから、今度はきっと一緒になりましょう』と書かれていた。

その手紙を胸にしまい込んだ西の王子は、その長き命が尽きるまで聖女を探し続けることを誓ったという・・・。





「ねぇ、メリダ、このお話に出てくる国はもう無いのかしら?」

「そうですね、そもそも本当にあった話かどうかも分かりませんし、本当の話だったとしても、この話自体がずいぶん昔のものでしょうから、もう無くなっているでしょうね」

「・・・それはそうね」

「お話ももう終わりましたし・・・もう眠れそうですか?お嬢様」

メリダは優しく微笑んだ。

「ええ、ありがとう。メリダのおかげだわ、おやすみなさい」

「お嬢様も良い夜を・・・おやすみなさいませ」

就寝の挨拶をしたメリダは、エレーヌの部屋を後にした。





夜も更け、一人眠りについたエレーヌの枕元に人影があった。

「あなたを失ったのも、こんな夜でしたね・・・」

肩にかかる銀色の髪をした赤い瞳が美しい男は、愛しげにエレーヌの横顔を見つめ、感慨深そうに呟いた。

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