あなたのためなら

天海月

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アメリアはセルヴィスの呪いの可能性についても調べたが、やはりそれらしいものは見つからない。

逃げようと思えば、全て投げ出して今の立場から逃げることもできた。

もしも、彼女がもっと軽薄な性質であったならば、事態は別の方向に転がっていたに違いない。

だが、アメリアの実直な性格は、あれだけの苦痛を受けても、問題からの逃亡を自身に許すことが出来なかった。

必然的に、彼女は膠着する現状と対峙し続ける、という苦難の道を自ら選択した。



アメリアは何の根拠もなかったが、どこか確信めいたものを感じていた。

もうセルヴィスは、呪いであろうが病であろうが、何をどうしようと笑ってくれないのかもしれない、ということに。

彼女自身の第六感のようなものが、もうこれ以上進まない方が良いという警告をしているような、何か嫌な予感がした。


それでも、彼女は原因を調べ尽くさずにはいられなかった。

仮にもし事実が明らかになったとして、誰も救われず、自身も更なる失望の底に落とされるかもしれないと感じていても。

知らないほうが良かった、と思うかもしれないとしても。


それは無駄な足掻きで、セルヴィスも望まないだろうということも解っていた。

だが、制動装置を失い半ば壊れかけた機械のようになったアメリアには、どうしても自分を止めることができなかった。


ここまで来るとそれが、セルヴィスへの愛からなのか、自身がただ事実を明らかにしたいという知への執念からなのか、アメリアは自分でもよく判らなくなっていた。





それは、アメリアの事が嫌いだからという理由でも、まだ過去の愛する人を思っているからという理由でも、何でもよかった。

ただ、彼が何をどう考えているのか、それを知りたかった。

のに蔑ろにされ続ける』という事実に対して、彼女は想像以上に堪えていた。

彼のために、自分は何かした方が良いのか、何もしない方が良いのか、それすら判らない。

セルヴィスと一緒に居る時、アメリアの心は何も身に着けていないのに、彼の心はいつでも素顔が見えない鎧を纏い、剣を構えたままだった。

彼を理解したいのに、彼は理解される事そのものを拒んでいるようだった。

彼がもうその気持ちを変えられないのだとしたら、蔑ろにされても受け入れる努力はするつもりだったが、それに対して何か納得できるだけの確かな理由が一つでも欲しかった。

ただ、それだけだった。

もしも、彼が自ら理由を話してくれていたとしたら、彼女はここまで頑なにはならなかっただろう。

現在のアメリアは出口の見えない苦痛によって、その精神を病みつつあったが、本来の彼女は理知的な女性だった。

当初からそれが伝えられていれば、戸惑いつつも彼女は受け入れたに違いなかった。

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