男の妊娠。

ユンボイナ

文字の大きさ
上 下
35 / 47
第五章 さらにその後の子どもたち

恋は盲目⑴

しおりを挟む
 「ねぇ、Pちゃん、わたし、あの男だけは止めたほうがいいと思うわよ。わたしの勘が全力でダメだと言ってるわ。」
M次はP太に言った。
「なんでよ、背は高いし、優しいし、何にも言うことないじゃん!」
M次はため息をついた。
「目が笑ってないのよ。深い闇とかありそう。」
 P太は都内の大学で生物学を学び、そのまま大学院に進学した。長崎で生物学の学会があり、そこで知り合ったのがE郎という、魚類学を専攻している大学院生だった。P太は植物の研究をしているので全く分野は違っていたが、懇親会で意気投合し、遠距離恋愛することになった。その後、E郎が年末東京に里帰りした際に、P太は生物学上の親であるM次にE郎を会わせたのだ。
 「だいたいね、遠距離恋愛ってのが難しいのよ。周りのゲイで遠距離恋愛で成功してる例って聞かないもん。絶対どっちかが浮気するんだわ。」
M次は真面目な顔で話した。
「しかも普通に女にモテそうなタイプだし、Pちゃん、浮気されて捨てられかねないわね。」
「酷い! もう僕、Mさんにはこの話しない!!」
P太はへそを曲げた。
「まあ、若い頃に恋で躓くのはいい経験になるだろうけど、あんまり長く引っ張ると貴重な時間を無駄にするんだから、さっさと次に行くことよ。」
正月の箱根駅伝をテレビで見ていたL彦は、何となくそのやり取りを背中で聞いていたが、特にコメントすることもなく黙っていた。
「Lさんはどう思う?」
P太に尋ねられたので、L彦は振り向いた。
「どう、って俺は会ってないからなー。仕事だったし。」
「遠距離恋愛ってそんなにダメなの? 」
「んー。将来結婚するってのを視野に入れたら難しいかな、やっぱり。」
「Lさんまでそんなことを言って! 僕、正月のうちに彼に会ってくる!!」

 P太はリビングから自室に入ると、アイーンでE郎に電話をした。
「もしもし、そっちはヒマ?」
「あー、お母さんはビールのんで寝っ転がってるけど、静岡のばあちゃんが遊びに来てるから相手してたよ。」
「今から初詣とか行けないかな?」
「ばあちゃん付きでいいなら。明治神宮とかどうかな。」
P太の家は横浜なのでもちろん行けなくはない。
「じゃあ、11時に明治神宮前の駅の改札でね。」

 P太はすぐに家を出ると、最寄り駅から東横線に乗って明治神宮前駅をめざした。24世紀においても地下鉄は公共交通機関として活躍しており、東横線が副都心線直通運転をしているのも今と同じである。車内はそこそこ混雑しており、家族連れも多かった。
「うちの家族はマイノリティのくせに保守的なことを言うからなー。」
などとP太が考えているうちに明治神宮前に到着した。

 「よ、P太、年末も会ったけど。」
E郎は黒いダウンジャケットを来て、隣に70前くらいのおばあさんを連れていた。
「E郎のお友達? こんにちは。」
「こんにちは!」
P太は努めて明るく挨拶した。
「私、昨日はB子に浅草寺に連れて行ってもらったんだけど、明治神宮も混んでるかねぇ。」
「混んでると思いますよ。はぐれないように気をつけましょうね、お互い。」
すでに駅の改札の時点で人がごったがえしていた。E郎は祖母に、「ばあちゃん、僕と腕組んどこうか。」と言った。しかし、P太はE郎の祖母の前でE郎と手を繋ぐこともできず、少々もやもやした。
「E郎、おばあちゃんに優しいんだね。」
P太がそう言うと、E郎は苦笑いした。
「なんせ、せっかくばあちゃんが家に遊びに来てるのに、母が休みだからってビール飲んでひっくり返ってるからね。」
E郎の祖母は言った。
「あの子は普段仕事が忙しいから仕方ないのよ。でも孫がこうして引っ張り出してくれるから、私は幸せものだわ。」
その後、二人は人混みの中、南参道からゆっくり歩いて大鳥居を潜り、本殿に向かった。その間、ずっとP太はE郎の祖母と話をしていた。
「E郎ったら、昔はピーピー泣く気弱な子だったのに、すっかりこんなしっかりした男の人になってねぇ。」
「そうなんですか。」
「そうよー。父親がちょっとグズグズしてる人だったから、遺伝かしらって心配してたんだけど、今はB子の遺伝がでたのか強くなったわ。」
「へー。」
「けど、何を思ったのか長崎の学校なんか行ってしまって。たまにしか会えなくて寂しいわ。」
「そりゃ寂しいですね。」
「私の夢はね、曾孫を見ることなの。男でも女でも、真ん中でもいいの。E郎の子どもだもん、絶対可愛いと思うわー。」
その言葉に、P太は何も言えなかった。

 そうこうしているうちに本殿についたが、たくさんの人があふれかえっており、本殿前に設けられた賽銭箱に小銭を投げて、離れたところから手を合わせるような状況だった。
「やっぱり東京は神社もすごいわね。こんなんでご利益あるかしら?」
「ばあちゃん、人が集まる場所はエネルギーもすごいっていうから、きっとご利益あるよ。」
 三人はせっかくだからというので、参拝を終えたあと近くのレストランで昼食をとることにした。もちろん、レストランも満席だったが、三十分ほど待って入ることができた。
「本当に東京は人だらけ。E郎が九州に行った気持ちも分かるわー。P太くんはずっと関東なのよね?」
E郎の祖母は少し疲れているようだった。
「東京で生まれたんですが、父が横浜市港北区にマンションを買ったので、ずっとそっちです。」
「わー、横浜も人が多いわよね。」
「そうですね、けど、僕には関東から離れる勇気がないから。」
「私は逆に静岡から出る勇気がないの。B子には心配だから一緒に東京で住もうって言われてるんだけど。なんだかんだ言って、静岡くらいがちょうどいいのよ。」
E郎が言った。
「ちょっと足をのばせば海や山があって、いいところだもんね。僕もぶっちゃけ住むなら東京よりは静岡がいいな。」
「けど、B子は仕事があるから動けないでしょ。困ったもんだわー。」
P太は、E郎の祖母に気づかれないように、テーブルの下の脚をE郎の方に伸ばした。E郎はそれに自分の脚をそっとくっつけた。
「P太くんはご両親はご健在?」
「元気ですよ。今は箱根駅伝見ながら飲んでると思います。」
「あら、そう。親は大切にしなきゃいけないわよ。お家に帰ったら、ちゃんとお父さんお母さんに構ってあげてね。」
P太は苦笑いした。
「うちは両親の仲がいいんで、二人で楽しくやってると思います。」
「孫の顔も見せてあげるのよ。」
またその話か、と思いつつ、P太はニッコリ微笑んで、「そうですね。」と言った。

 P太は昼三時前に帰宅した。
「おデートはどうだった?」
M次が尋ねた。
「E郎のばあちゃんもいて、なんだか切なくなった。」
「ほら、デートにババア連れて来るような男、やめときなさいって!」
P太は反発した。
「違うよ、E郎は静岡からわざわざ出てきたばあちゃんをほっとけなかったんだ。優しいんだよ。」
「マザコンならぬババコンなのね。やっぱり闇が深いわ。」
M次はそんなことを言いながら、紅茶をいれてクッキーと一緒に出してきた。L彦は奥の部屋で寝ているらしい。
「分かってると思うけど、わたしはPちゃんには幸せになって欲しいのよ。」
「うん。」
P太はスプーンで紅茶と砂糖を混ぜながら頷いた。
「Pちゃんが二丁目で男を取っかえ引っ変えするような子にならなくて良かったとは思うけど、ちょっとは他の男に目を向けてみてもいいんじゃない?」
「そうかな。でも、今はE郎以外考えられないや。」
M次はため息をついた。
「恋は盲目だもんねー。仕方ないか。そうだ、L彦が起きてくるまで一緒に映画でも観る?」
「ううん、ちょっと一人にさせて。」
P太は紅茶を一気に飲み干すと、自分の部屋に入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

処理中です...