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第一章

第三話 再び智恵子(49)

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  前回のちょうど一週間後の同じ時間、智恵子は再び広海のもとを訪れた。
「先生、彼女ができる方法、分かりましたか?」
智恵子はソワソワしながら尋ねた。
「できる方法、というか、できやすくする方法なんですけど、アプリを使いましょう。」
広海は智恵子にメモを渡した。もちろん、咲子から聞いたアプリの名前が書いてあるものである。
「出会い系アプリ! ビアン用のやつがあるんやね、知らんかったわ。」
智恵子はメモを手に取って食い入るように見ている。
「これでアラフォー以上のボイタチをいっぱい狙い撃ちすれば、そのうち彼女ができるんじゃないか、って友人は言ってました。」
智恵子は眉間にシワを寄せた。
「そんな、数打ちゃ当たる方式ってどうなんやろ。」
「三宮さん、こと彼女を作るということなら、色んな人に会ったほうが確率が上がっていいですよ。何なら同時並行で複数人とデートするぐらいじゃないと!」
「うーん、あたかも彼女を作ることが最優先で、あまり恋してるって感じやないね……。」
首を傾げる智恵子に、広海はこうアドバイスした。
「あのね、『私にはこの人しかいない!』って思い詰めると上手くいかないんです。ほら、若い頃を思い出してください。男も、いいなと思って一生懸命アプローチした人には振り向かれなくて、いい加減にあしらってる人に好かれたでしょう?」
智恵子はポンと手を叩いた。
「そうや、いつもそうやった! 好きな人には好かれんで、どうでもいい奴には言い寄られたんです。あれ、不思議ですね。」
「結局、人は余裕のある人に魅力を感じるみたいなんですよ。だから、三宮さんもアラフィフだから彼女ができないかも、なんて思い詰めないで、彼女候補ならいくらでもいるわ、ぐらいの心境でいればいいと思います。実際、三宮さん、男性にも女性にもモテそうですし。」
最後の一言はお世辞である。しかし、それを聞いた瞬間に智恵子の表情は綻んだ。
「あら、ほんまに? これでも私、高校時代には軽トラ一台分くらいボーイフレンドがいたんよ。」

  この後、智恵子は広海に自分がいかにモテたかを1時間に渡って語った。学校の靴箱にはしょっちゅうラブレターが入っていただとか、卒業式には複数人に告白されただとか。最後のほうには広海も飽きてしまって、メモを取るふりをして幾何学模様を書いていたが、智恵子はそんなことには気づかないほど熱心に話した。
「三宮さん、1時間を過ぎています。」
広海の静かな声に、智恵子は驚いて自分の腕時計を見た。
「あ、ほんまや! 先生、長々とすみません。」
「いいんです、だけど三宮さん。彼女ができたら絶対に報告しにいらっしゃってくださいよ?」
智恵子はニヤリと笑って言った。
「約束します、絶対近いうちにまた先生のところにご報告に上がります。」
広海が頷くと、智恵子は自分の長財布から1万円札を抜き取って渡した。
「ありがとうございます、またお待ちしています。」
「先生、ほんまに来るで!」
智恵子は元気よく部屋を出て行った。広海はドアが閉まったのを確認してから、ふう、とため息をついた。どっと疲れが出るとはこのことである。




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