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約束
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「遅くなって悪かった」
悲しそうに謝るBランクさんに、 女の人は「意外と自分では死ねないものね」と笑って「あの子と逝くわ。お願いね」と目を閉じる。その顔にはもう、悲しみは浮かんでいなかった。
「ま、待て!まさか!」
一瞬の事だった。
剣士が飛び出したけど、全然間に合わなくて。
Bランクさんの剣は、女の人の心臓を一突きにしていた。
「なぜ……なぜだ! やっと救えたんじゃないか!」
「こいつが望んだからだ」
詰め寄る剣士にも、Bランクさんは全く動じない。彼女の亡骸を愛しげに見つめながら、訥々と答える。
「こいつは誇り高い戦士だった。こいつにとっちゃ命より誇りの方が大事だった、それだけだ」
「……っ」
人間の考える事って不思議だ。命より大事な物なんて何もないじゃない。クイーンの行動は理解できる、自分の命より大切にしたい命があったんだよね。でも、命より誇りの方が大事なの?
わからなくて、アルマさんの懐の中で体を傾げていたら、悔しげな剣士を一瞥したBランクさんが、なぜかツカツカとアルマさんに歩み寄ってくる。
なあに?と思った瞬間、懐から引きずり出されてそのまま空中に投げられた。
くるくると回転しながら落ちてくるあたしに、Bランクさんの剣が真横から襲いかかる。
ビュッ
という、剣が風を切る音だけが嫌に響いた。
「てめえ!」
「スラちゃん!」
「やめて!」
「!!」
落ちていく瞬間、みんなの顔が見えた。驚きと焦りと悲壮感。だれもがあたしに手を伸ばしてくれている。
でも、きっと間に合わない。
迫り来る刃。
急に、Bランクさんのこれまでの虐殺っぷりの凄まじさが、走馬灯のように蘇って、からだが竦み上がった。
みんなが息を飲む音が聞こえて、剣があたしの体を通り過ぎ……
………
………あれ?
あたしはなぜかBランクさんの剣の上に、ピキーンと固まったまま、チョンと乗っかっていた。
え?
あれ?
なんで?
「お前達がこのスライムを連れ歩いてるのと一緒で、人の正義なんざ人それぞれってことだ」
は、あの、どういう、意味でしょうか。
Bランクさんがあたしを乗っけたままを剣を上下にチョイチョイと振るもんだから、すっかり固まったあたしはされるがまま浮いては剣で受けとめられるという、命の縮む時間を過ごしていた。
恐怖のあまりこんなに体がかちこちなのに、なぜ剣の上手に着地出来るのか。Bランクさんの受けとめ方がソフトなのか。
「人によっちゃあ魔物と見れば問答無用で斬られるぞ」
そう言って、ひときわ剣を強く振ったと思ったら、あたしはアルマさんの胸に戻っていた。
両手でしっかりとキャッチされ、一気に全身の力が抜ける。
「スラちゃん!」
「大丈夫?また真っ白だよ、怖かったのね」
「この上なく平べったいな」
「目玉焼き、再び」
みんなの声が遠くに聞こえる。これもう、意識が飛びかけてるんじゃなかろうか。
あたしを囲んで労わってくれるみんなを見て、Bランクさんがやれやれって感じで小さくため息をつくのが薄っすら見える。
「これからも連れ歩くなら、とやかく言わせねえくらいの力を持てよ」
そう言い放ったと思うと、Bランクさんはよいしょと女の人を両手で抱えて堂々とその場を去って行った。
悲しそうに謝るBランクさんに、 女の人は「意外と自分では死ねないものね」と笑って「あの子と逝くわ。お願いね」と目を閉じる。その顔にはもう、悲しみは浮かんでいなかった。
「ま、待て!まさか!」
一瞬の事だった。
剣士が飛び出したけど、全然間に合わなくて。
Bランクさんの剣は、女の人の心臓を一突きにしていた。
「なぜ……なぜだ! やっと救えたんじゃないか!」
「こいつが望んだからだ」
詰め寄る剣士にも、Bランクさんは全く動じない。彼女の亡骸を愛しげに見つめながら、訥々と答える。
「こいつは誇り高い戦士だった。こいつにとっちゃ命より誇りの方が大事だった、それだけだ」
「……っ」
人間の考える事って不思議だ。命より大事な物なんて何もないじゃない。クイーンの行動は理解できる、自分の命より大切にしたい命があったんだよね。でも、命より誇りの方が大事なの?
わからなくて、アルマさんの懐の中で体を傾げていたら、悔しげな剣士を一瞥したBランクさんが、なぜかツカツカとアルマさんに歩み寄ってくる。
なあに?と思った瞬間、懐から引きずり出されてそのまま空中に投げられた。
くるくると回転しながら落ちてくるあたしに、Bランクさんの剣が真横から襲いかかる。
ビュッ
という、剣が風を切る音だけが嫌に響いた。
「てめえ!」
「スラちゃん!」
「やめて!」
「!!」
落ちていく瞬間、みんなの顔が見えた。驚きと焦りと悲壮感。だれもがあたしに手を伸ばしてくれている。
でも、きっと間に合わない。
迫り来る刃。
急に、Bランクさんのこれまでの虐殺っぷりの凄まじさが、走馬灯のように蘇って、からだが竦み上がった。
みんなが息を飲む音が聞こえて、剣があたしの体を通り過ぎ……
………
………あれ?
あたしはなぜかBランクさんの剣の上に、ピキーンと固まったまま、チョンと乗っかっていた。
え?
あれ?
なんで?
「お前達がこのスライムを連れ歩いてるのと一緒で、人の正義なんざ人それぞれってことだ」
は、あの、どういう、意味でしょうか。
Bランクさんがあたしを乗っけたままを剣を上下にチョイチョイと振るもんだから、すっかり固まったあたしはされるがまま浮いては剣で受けとめられるという、命の縮む時間を過ごしていた。
恐怖のあまりこんなに体がかちこちなのに、なぜ剣の上手に着地出来るのか。Bランクさんの受けとめ方がソフトなのか。
「人によっちゃあ魔物と見れば問答無用で斬られるぞ」
そう言って、ひときわ剣を強く振ったと思ったら、あたしはアルマさんの胸に戻っていた。
両手でしっかりとキャッチされ、一気に全身の力が抜ける。
「スラちゃん!」
「大丈夫?また真っ白だよ、怖かったのね」
「この上なく平べったいな」
「目玉焼き、再び」
みんなの声が遠くに聞こえる。これもう、意識が飛びかけてるんじゃなかろうか。
あたしを囲んで労わってくれるみんなを見て、Bランクさんがやれやれって感じで小さくため息をつくのが薄っすら見える。
「これからも連れ歩くなら、とやかく言わせねえくらいの力を持てよ」
そう言い放ったと思うと、Bランクさんはよいしょと女の人を両手で抱えて堂々とその場を去って行った。
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