上 下
91 / 96

選び直し

しおりを挟む
「面倒だから人間にも姿が見えるようにしてあげてくれる?」


蘇芳さんの要請に「面倒じゃのう」とぼやきつつ、亀殿が姿を現す。俺にもはっきりと見えるようになったけれど、聡もようやく見えたようで隣で「うおっ」と叫んでいた。

しかしやっぱり、亀でも長く生きてると分かるもんなんだな。体は普通の亀に比べてずいぶんと大きくて、両腕を回しても届かないくらいに大きい。多分甲羅の直径だけで1mはあるだろう。

そしてその甲羅には苔やら水草やらが生えていて、長い年月ここで暮らしてきたんだろう事がうかがえる。なにより尻尾の辺りから、柔らかそうな藻がひらひらと長く伸びている。

どうみても何百年と生きていそうなご長寿亀さんだった。


「は、はじめまして、俺……」

「あー……よいよい。どうせ覚えられんのよ。して、ワシは何をすれば良いのかのぉ?」


挨拶しようとしたら遮られた。どうやら詳しく事情を聞いてくれる気はないらしい。


「もー、かめ殿はどこまで面倒臭がり屋なんだ! だいたいアンタ、シラト様やコタカ様よりもずっと若い筈だろ!」

「え、そうなの?」

「そーだよ! なんなら俺より若いよ! 爺さんのフリして面倒なこと回避してるだけだって」

「異な事を言うのぅ」


蘇芳さんの主張に、亀殿は不服そうだ。


「お主らは若い時分に格があがったのであろうが、ワシはこのとおり、爺になってから神への道を歩き始めたんじゃぁ、そりゃあ肉体に違いも出よう」


そう言われるとそうな気もする。神様の世界の常識なんか俺には分からないから、どっちの言葉を信じればいいのかは結局分からなかった。


「それで? 何をしに来たと言ったかのぅ」

「まだ詳しくは言ってねえよ」

「さっさと言ってくれんかのぅ。まだ眠いんじゃが」


確かに、早くしないと帰りが怖い。蘇芳さんもそう思ったのか、ちょっとだけ舌打ちしつつ本題に入った。

蘇芳さんはてきぱきと、俺とさくらに必要な助力を述べていく。さくらは人語を話す力、俺は増えた潜在霊力を引き出す力。それが今回求めている内容だ。

亀殿は「ほー………………」と呟いて、しばらく黙る。

何かを考えるように空を見上げて目を閉じる姿は、長老、とでも言いたくなるような威厳たっぷりなものだった。


「おい、じじい。寝てねぇだろうな」

「起きておるわい」


蘇芳さんが半目でつっこめば、亀殿が失礼な、といいたげに返す。ふたりはなかなかいいコンビだった。


「んー……あれじゃな、その仔狐は選び直しがよいじゃろうのぅ」

「選び直し?」


なんだそれ。

俺は足元にちんまりと座っているさくらと顔を見合わせた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

お稲荷様と私のほっこり日常レシピ

夕日(夕日凪)
キャラ文芸
その小さなお稲荷様は私…古橋はるかの家の片隅にある。それは一族繁栄を担ってくれている我が家にとって大事なお稲荷様なのだとか。そのお稲荷様に毎日お供え物をするのが我が家の日課なのだけれど、両親が長期の海外出張に行くことになってしまい、お稲荷様のご飯をしばらく私が担当することに。 そして一人暮らしの一日目。 いつもの通りにお供えをすると「まずい!」という一言とともにケモミミの男性が社から飛び出してきて…。 『私のために料理の腕を上げろ!このバカ娘!』 そんなこんなではじまる、お稲荷様と女子高生のほっこり日常レシピと怪異のお話。 キャラ文芸対象であやかし賞をいただきました!ありがとうございます! 現在アルファポリス様より書籍化進行中です。 10/25に作品引き下げをさせていただきました!

あやかし古民家暮らし-ゆるっとカップル、田舎で生きなおしてみる-

橘花やよい
キャラ文芸
「怖がられるから、秘密にしないと」 会社員の穂乃花は生まれつき、あやかしと呼ばれるだろう変なものを見る体質だった。そのために他人と距離を置いて暮らしていたのに、恋人である雪斗の母親に秘密を知られ、案の定怖がられてしまう。このままだと結婚できないかもと悩んでいると「気分転換に引っ越ししない?」と雪斗の誘いがかかった。引っ越し先は、恋人の祖父母が住んでいた田舎の山中。そこには賑やかご近所さんがたくさんいるようで、だんだんと田舎暮らしが気に入って――……。 これは、どこかにひっそりとあるかもしれない、ちょっとおかしくて優しい日常のお話。 エブリスタに投稿している「穂乃花さんは、おかしな隣人と戯れる。」の改稿版です。 表紙はてんぱる様のフリー素材を使用させていただきました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。 狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか! 四社の狐に天狐が大集結。 第七弾始動! ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

鬼の頭領様の花嫁ごはん!

おうぎまちこ(あきたこまち)
キャラ文芸
キャラ文芸大会での応援、本当にありがとうございました。 2/1になってしまいましたが、なんとか完結させることが出来ました。 本当にありがとうございます(*'ω'*) あとで近況ボードにでも、鬼のまとめか何かを書こうかなと思います。  時は平安。貧乏ながらも幸せに生きていた菖蒲姫(あやめひめ)だったが、母が亡くなってしまい、屋敷を維持することが出来ずに出家することなった。  出家当日、鬼の頭領である鬼童丸(きどうまる)が現れ、彼女は大江山へと攫われてしまう。  人間と鬼の混血である彼は、あやめ姫を食べないと(色んな意味で)、生きることができない呪いにかかっているらしくて――?  訳アリの過去持ちで不憫だった人間の少女が、イケメン鬼の頭領に娶られた後、得意の料理を食べさせたり、相手に食べられたりしながら、心を通わせていく物語。 (優しい鬼の従者たちに囲まれた三食昼寝付き生活) ※キャラ文芸大賞用なので、アルファポリス様でのみ投稿中。

双子妖狐の珈琲処

五色ひいらぎ
キャラ文芸
藤森七葉(ふじもりなのは)、22歳。IT系企業に新卒入社し働いていたが、思うように仕事ができず試用期間で解雇される。 傷心の七葉は、行きつけの喫茶店「アルカナム」を訪れ、兄弟店員「空木蓮司(うつぎれんじ)」「空木壮華(うつぎそうか)」に愚痴を聞いてもらう。 だが憩いの時間の途中、妹の藤森梢(ふじもりこずえ)から、両親と共に七葉の自室を掃除しているとの連絡が入った。駆けつけてみると、物であふれた七葉の部屋を両親が勝手に片付けていた。勝手に私物を処分された七葉は両親に怒りをぶつけるが、その時、黒い泥状の謎の存在「影」が現れ、両親を呑み込んでしまった。七葉たちも襲われかけるが、駆けつけた蓮司と壮華に救われる。 蓮司と壮華は実は人間ではなく、妖力を持った「妖狐」の兄弟であった。 自室に住めなくなった七葉は当面、「影」から身を護るためも兼ねて、住み込みの形で「妖怪喫茶」アルカナムで働くことになる―― 「影」の正体とは、そして七葉と蓮司の関係の行方は。 あやかし集う喫茶店での、不可思議な日々が始まる。 ※表紙イラストは、にんにく様(X: Nin29G )に描いていただきました。

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

処理中です...