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部屋に帰れば

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そんなにピリピリすることないのになぁ。

思わず笑いが漏れる。部屋に帰るなり隅っこまでかっ飛んでったさくらは、全身の毛を逆立てて……それこそもうフサフサしっぽの先まで逆立てて、部屋の隅っこに向かって威嚇を始めた。あんまりな勢いに、聡と二人顔を見合わせて苦笑しながら見つめる。


「なるほどね~!あそこにその悪霊とやらがいるわけか、分かりやすいな!」


昨日なんか泣いてたくせに余裕じゃねぇか、聡。

やっぱりさくらだけでも視えてたら恐怖なんか半減するんだな。

昨夜の恐怖体験で脅え過ぎてすっかり泣きが入った聡を連れて、朝イチで白龍神社に向かった俺達は、ついでに大学の講義もちゃっかり受けて、なぜか一緒に俺の部屋まで帰ってきた。まぁ明日は休みだしバイトもない。しかも焼うどん作ってくれるって言うからついつい特に何も考えずに連れてきちゃったわけだが。


「ああ~、せっかく来たのにさくらちゃんが振り向いてもくれない」

「ムリだな、あきらめろ。さくらは今あの部屋の隅っこのヤツに夢中だからな」


なんだ、聡のヤツ動物好きだったのか。さすがにさくらは人目のあるところじゃ触れないもんなぁ。

しかし今日はムリだろう。

本当にもう、部屋に戻ってきてからずっと隅っこ威嚇しっぱなしだもんな。片時も目を離さない。
よく飽きないもんだと感心するよ。

聡が作った意外にウマイ焼うどんをはむはむと頬張るながら、さくらの孤軍奮闘をのんびり眺めていたら、聡がアホな事をいいだした。


「なぁなぁ、あのおっかないポルターガイストの主がプリティさくらちゃんだったワケじゃん?その悪霊とやらも、視えたら美女だったりしねぇかな」

「アホか」


どんだけ夢見がちなんだ。もし悪霊なんか視えたら、100%気持ち悪い系の何かだと断言できるわ。


「それにしても雅人、お前さくらちゃんにメッチャ愛されてるな~、見ろよあの健気な姿!」


やっぱそうかな。実は俺も若干感じてるんだよな。

悪霊とやらが僅かに移動するのか、さくらも時々右に左に跳ねるんだけど、常に俺をその小さな背に庇うような位置どりだ。必然的に俺は、さくらのボワッと膨らんだしっぽばっかり見てるわけだが。

うん、可愛い。

神主さんによると、どうやらさくらは白龍様から脅されたらしくて、悪霊への警戒を強めてるらしい。

たださ、実際そんなに大したことしてくると思えないんだよな。ぶっちゃけさくらが来る前だって夜中に目が覚めるってくらいで俺的にそんなに困ってたわけでもない。

さくらは俺の生気を奪うなんてとんでもない!って感じでメッチャ怒って、毎晩気合いたっぷりでその悪霊とやらと戦ってくれてるから、可哀相でさくらには言えないんだけど。


「さくら、大丈夫だからさ。ほら、抱っこしてやるからこっちおいで」


背中の辺りをホワホワ撫でてお誘いをかけてはみたものの、さくらは振り向いてもくれない。いつもだったらいそいそと近寄ってくる抱っこのお誘いでもダメだとは……白龍様、脅し過ぎじゃないか?

そんな考えは黒糖アイスにチョコレートとハチミツをトッピングするくらい甘かったって、俺はその晩身をもって実感したんだけどな。
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