上 下
74 / 75

こっちが泣きたい

しおりを挟む
今、ゆずのヤツ二人って言ったよな。

そういえば今日はミリーちゃんとルーフェルミちゃんを誘って、近くの湖まで行ってピクニックがてら素材採集してくるって言ってたし、十中八九、その二人からの入れ知恵に違いない。

泣ける。

酒場に行けばほぼ村中のおっさん達が集まってんじゃないかってな中でゴリッゴリに説教され、そのうえ女性陣までもがゆずの味方だとは。

四面楚歌感が圧倒的すぎない?

なんかもう怒る気にもならなくて、俺は力なくゆずに尋ねる。


「ミリーちゃん達から、なんかアドバイスでも貰ったのか?」

「うん! 陸は鈍感だから、ことあるごとに好き好き、一緒に居たいって言……」


ほぼほぼ白状してから、ハッとした顔されても。


「なるほどー。お前はホント、人の言うこと素直に聞くようになったよなぁ」


むしろ感動するわ。あの荒くれ者がここまで進化するとは。

妙な感動で若干冷静さを取り戻したオレとは逆に、ゆずはもう面白いようにテンパっている。真っ赤になったり青くなったりしてるけど、別にそんなに慌てなくても、もうおおかた状況は読めたから。


「大丈夫、別に怒ってない」

「ち、違うの! あの……ごめん。でもミリーに言えっていわれたから言ったんじゃなくて」

「分かってる分かってる」

「ミリーは私が相談したから、アドバイスしてくれただけで」


まさかの篤い友情。ミリーが悪く思われないように必死にかばおうとしてたのか。ちくしょう、なんだかこっちまで優しい気持ちになるじゃないか。


「だって……だって私、分かんなかったから……」

「うん? え、なにが?」


幼なじみの成長にまたまたジーンとしていたというのに、ゆずはまだ何事かを震える声で言いつのっている。


「い、今まで、誰か好きになったことなんかなかったし」


待って、なんか恥ずかしいこと言い出した!


「もともと男なんだし!」

「ちょ、ちょっと待った」

「自然に女の子らしいアプローチとかできないし!」

「いやいや充分だから!」

「嘘ばっかり! 昨日までこれっぽっちも気づかなかったくせに」


ぐ……それを言われると弱い。思わず口ごもったら、ゆずも悲しそうに目を伏せた。


「考えたけど……なんて言えば陸がときめいてくれるのかなんて、想像がつかなかったんだもん……」


もんとか言うな! とか言ったら本格的に泣きそうで言えない! ゆずのヤツ既に爆発しそうなくらい赤いし。空も心配そうに「クウ~ン……」とか鼻鳴らしてるじゃねえか。


「と、ときめいてって……そういうの考えなくていいから! お願いだから自然体で!」

「それじゃだめなんだもん……」

「泣くなって~~~!!!」


こっちが泣きたい。なんでだよもう……乙女力、強すぎない?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学
ファンタジー
天下無敵の聖女様(多分)でも治癒魔法は極力使いません。知られたら面倒なので隠して薬師になったのに、ポーションの効き目が有りすぎていきなり大騒ぎになっちまった。予定外の事ばかりで異世界転移は波瀾万丈の予感。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...