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【リスト視点】噂、千里を走る
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やれやれ、これでやっと進展しそうだ。
リクとゆずちゃんの工房を出た俺は、深い安堵のため息をついた。
ゆずちゃんが陸を好きなようだと気がついてから、かれこれもう半年ほどが過ぎたかも知れない。
ようやく、本当にようやく、ゆずちゃんの気持ちが陸に伝わったのかと思うと、俺までしみじみと良かったなあと思える。
本当に長かった。
最初は多分、ゆずちゃん自身も自分の気持ちに気がついていなかったのだろう。
それでも、ゆずちゃんの目はいつだって陸を追っていたし、一緒に冒険に出ても話すことは陸のことばかり。
今日は怪しげな紫色の液体を錬金してたとか。
なんか閃いたと夜中に叫んだと思ったら、そこから三日完徹で錬金壺に向かってるんだとか。
貴重な素材が手に入って、喜びの舞を舞ってたとか。
錬金壺に食べたらヤバそうなものをぶっこんでるのに、なぜか美味しそうな料理を作るんだとか。
おかげで僕らは錬金マニアで滅多に外に出てこない陸が、今何を錬金しているのか、何日寝てないのか、何が好きで何が嫌いなのか、元気なのか鬱なのか、健康状態から寝言の有無まで知っている。
実際、陸本人よりも詳しく知っているんじゃないかと疑うレベルだ。
そう、それほどまでにゆずちゃんは、陸のことをずっと見ていた。
それなのに。
それなのにだ。
陸ときたら頭の中は錬金が九割がたを占めているんじゃなかろうかというくらい、くる日もくる日も錬金漬けで、たまに出てきたかと思えばびっくりするような高位の錬成物をがっつりギルドに納入し、その報酬で特殊な素材を呆れる程買い込んではまた工房に戻るの繰り返し。
採集に誘ってもなかなか一緒に行ってくれないんだと嘆く、ゆずちゃんの寂しそうな顔が見えていないのかと怒鳴ってやりたいくらいだった。
しかも、どうやら陸はなんとキャッシュちゃんの事が気になっているらしく、ゆずちゃんに「可愛い、俺の天使」などとのたまうらしい。
そもそもキャッシュちゃんは俺の天使だ。
そばにあんなに健気なゆずちゃんがいるというのに横恋慕しないで欲しい。
まあそんな風に長い事、俺もこの町の皆もやきもきしてきたわけだが、これでようやくその心配からも解放されそうだ。陸のあの様子なら、もう一月と持つまい。
何か、二人が喜びそうな祝いの品でも用意しておいてもいいかも知れない。
なんとなく祝杯をあげたいような気分になって、俺は町のギルド兼居酒屋の扉を押した。
途端、中からワッと歓声が上がる。
「おー! リスト、ゆずちゃんついにリクに告ったんだってな!」
「お前頑張ったらしいじゃねえか!」
「よっ! 恋のキューピッド」
「リクも年貢の納め時だなあ!」
おっと、もうこのレベルで知れ渡ってるのか。噂千里を走る、だな。
リクとゆずちゃんの工房を出た俺は、深い安堵のため息をついた。
ゆずちゃんが陸を好きなようだと気がついてから、かれこれもう半年ほどが過ぎたかも知れない。
ようやく、本当にようやく、ゆずちゃんの気持ちが陸に伝わったのかと思うと、俺までしみじみと良かったなあと思える。
本当に長かった。
最初は多分、ゆずちゃん自身も自分の気持ちに気がついていなかったのだろう。
それでも、ゆずちゃんの目はいつだって陸を追っていたし、一緒に冒険に出ても話すことは陸のことばかり。
今日は怪しげな紫色の液体を錬金してたとか。
なんか閃いたと夜中に叫んだと思ったら、そこから三日完徹で錬金壺に向かってるんだとか。
貴重な素材が手に入って、喜びの舞を舞ってたとか。
錬金壺に食べたらヤバそうなものをぶっこんでるのに、なぜか美味しそうな料理を作るんだとか。
おかげで僕らは錬金マニアで滅多に外に出てこない陸が、今何を錬金しているのか、何日寝てないのか、何が好きで何が嫌いなのか、元気なのか鬱なのか、健康状態から寝言の有無まで知っている。
実際、陸本人よりも詳しく知っているんじゃないかと疑うレベルだ。
そう、それほどまでにゆずちゃんは、陸のことをずっと見ていた。
それなのに。
それなのにだ。
陸ときたら頭の中は錬金が九割がたを占めているんじゃなかろうかというくらい、くる日もくる日も錬金漬けで、たまに出てきたかと思えばびっくりするような高位の錬成物をがっつりギルドに納入し、その報酬で特殊な素材を呆れる程買い込んではまた工房に戻るの繰り返し。
採集に誘ってもなかなか一緒に行ってくれないんだと嘆く、ゆずちゃんの寂しそうな顔が見えていないのかと怒鳴ってやりたいくらいだった。
しかも、どうやら陸はなんとキャッシュちゃんの事が気になっているらしく、ゆずちゃんに「可愛い、俺の天使」などとのたまうらしい。
そもそもキャッシュちゃんは俺の天使だ。
そばにあんなに健気なゆずちゃんがいるというのに横恋慕しないで欲しい。
まあそんな風に長い事、俺もこの町の皆もやきもきしてきたわけだが、これでようやくその心配からも解放されそうだ。陸のあの様子なら、もう一月と持つまい。
何か、二人が喜びそうな祝いの品でも用意しておいてもいいかも知れない。
なんとなく祝杯をあげたいような気分になって、俺は町のギルド兼居酒屋の扉を押した。
途端、中からワッと歓声が上がる。
「おー! リスト、ゆずちゃんついにリクに告ったんだってな!」
「お前頑張ったらしいじゃねえか!」
「よっ! 恋のキューピッド」
「リクも年貢の納め時だなあ!」
おっと、もうこのレベルで知れ渡ってるのか。噂千里を走る、だな。
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