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俺に、聞かせてくれないか?

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この花、水分吸うといきなり蕾がポンっと弾けるみたいに花が咲くんだ。ティーカップの中で次々に花開くマリスはそれだけでも華やかで可愛らしい。


「色が……!」


そしてシルクのような光沢のある花びらは、虹のように淡く色を変えていく。

トウカの甘い香りと、華やかで楽しいマリスの開花。

ちょっと気まずかった空気なんて無かったみたいに、ゆずは楽しそうな笑顔を見せた。

シンプルで素朴な味のクッキーと、甘い香りと華やかな楽しさがあるトウカティーを飲み終える頃には、すっかりゆずもリラックスした表情になっていた。

その幸せそうな表情を見ながら、俺はゆっくりと本題を切り出す。


「ゆず、今日はごめんな」

「謝らないでよ。勝手にキレて飛び出しちゃったの、本当は反省してるんだから」


すっかり落ち着いたらしいゆずは、そう言ってにっこりと笑う。

ちくしょう、可愛い。


「リストに怒られたよ。ちゃんとゆずの話、聞いてやれって」

「でも……」


途端に、ゆずは挙動不審に視線を彷徨わせる。


「俺には、言いにくいのか?」

「だって……邪魔、したくない」

「邪魔?」


なんでいきなり、邪魔って話になるんだろう。そう思って聞き返せば、ゆずはさらに真っ赤になって挙動不審さを増した。


「前に陸、錬金術に専念したいって言ってたし。悩ませちゃ、悪いと思って……」


俺は、感動した。

ゆずのヤツ、大人になりやがって……!

前は人の迷惑なんか1mmも気にしねえようなヤツだったじゃないかよ。やっぱあれか、ここで周囲の人に優しくされるようになって、こいつにも情緒とか思いやりとか、そんなもんが醸成されたという事か。


「バッカ野郎、ゆず! そんな小せえ事気にすんなって!」

「陸」


俺は上機嫌でゆずの頭をぐりぐりと乱暴に撫でた。

うんうん、成長したもんだ!

そんな成長したゆずの話なら、オニーサンいくらでも聞いてやるから! 引かないから安心して話してみなって!

そんな気持ちでゆずに笑いかければ、ゆずも目尻に涙を溜めて「陸……」とはにかんだ笑顔を見せた。


「迷惑じゃ、ない?」

「おう! 他でもないゆずの話だ、いつでも聞くさ」

「ありがとう」


そして、あの花が咲くみたいなにっこり可愛い笑顔を見せてくれたというのに。


「で、誰が好きなんだ?」


この言葉を聞いた瞬間、その笑顔が凍り付いた。

なんか、俯いてプルプル震えだすゆずに、俺はさっきの切れのいい回し蹴を急に思い出して背筋が寒くなる。


「え、ちょっとゆず」


もしかして、これが禁句なのか?
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