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よっしゃ、話を聞こうじゃないか
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ザ・紳士とでも言いたくなる性格イケメン、リストが去ってしまうと残されるのは当然俺とゆずの二人なわけで。
気まずい。
めっちゃ気まずい。
この重たい空気、いったいどうしたらいいわけ?
ゆずも気まずいのか、リストが出て行ったドアを見つめたまま立ち尽くしている。小さな背中がなんとも心細そうに見えて、俺はちょっと反省した。
そうだよな、リストもちゃんとゆずの話聞いてやれって言ってたし。ここは俺が一発、この気まずい空気をぶち破るべきだろう。
よっしゃ、話を聞こうじゃないか。
そう腹を括って、俺はゆずにゆっくりとした口調で話しかけた。
「ゆず、そんなとこに突っ立ってないでさ、とりあえずお茶でも飲まないか?」
いきなり本題に入られても、ゆずだって話しにくかろう。俺だってこの程度の気遣いくらいはできるんだ。
ほら見ろ。おずおずとだけど、ちゃんとゆずがテーブルの方に歩いて来たぞ。
……と思ったら、テーブルを通り越してキッチンに直行する。
「待て待て、今日は俺が淹れてやる。ゆずは座ってていいから」
「でも」
「大丈夫、錬金じゃなくてちゃんとティーサーバーで淹れるから」
慌ててそう言えば、やっとゆずが少し笑った。実際には、茶葉は俺が錬金によって作り上げたオリジナルブレンドティーだがな!
ゆずが好きな、ほんのり甘いトウカの実のフレーバーがベースで、それにこの乾燥させたマリスの花をひとつまみ。
カップに入れて作り置きのクッキーとともに食卓に運べば、ゆずは嬉しそうに目を細めた。
「いい匂い。トウカの実……?」
「するどい。こっちのお茶はトウカの実から作ったんだ」
「いつも思うけど、桃みたいな香りだよね。この甘い香り、大好き」
「だと思ってさ」
そう、これはわざわざゆずのために作ったスペシャルティーなのだ。誕生日にでもプレゼントしようかと思っていたが、意外と出番が早かった。ていうか、作っといて良かった。
「嬉しい……」
噛みしめるように呟くゆずに、俺はニヤリと笑ってみせる。
「待て待て、まだだ」
目の前で温かいお湯を注ぐ。
一気にトウカの実の芳醇な香りが広がった。
そして小さなティーカップの中では、マリスの花がクルクルと踊り出す。
小指の爪の先くらいの小さな白い蕾。マリスの花は砂漠地帯にあるという稀少な花だ。俺はまだ砂漠になんか行ったこともないから、自生している姿は見たことがない。
交易を生業にしているミランダ姐さんから、稀にもたらされる高額な素材。
「わあ!? 花が……!」
思う存分驚くがいい!
頬を上気させ、キラキラの目でティーカップを見つめるゆずを見て、俺は密かに会心の笑みを漏らした。
どうだ、可愛かろう!
気まずい。
めっちゃ気まずい。
この重たい空気、いったいどうしたらいいわけ?
ゆずも気まずいのか、リストが出て行ったドアを見つめたまま立ち尽くしている。小さな背中がなんとも心細そうに見えて、俺はちょっと反省した。
そうだよな、リストもちゃんとゆずの話聞いてやれって言ってたし。ここは俺が一発、この気まずい空気をぶち破るべきだろう。
よっしゃ、話を聞こうじゃないか。
そう腹を括って、俺はゆずにゆっくりとした口調で話しかけた。
「ゆず、そんなとこに突っ立ってないでさ、とりあえずお茶でも飲まないか?」
いきなり本題に入られても、ゆずだって話しにくかろう。俺だってこの程度の気遣いくらいはできるんだ。
ほら見ろ。おずおずとだけど、ちゃんとゆずがテーブルの方に歩いて来たぞ。
……と思ったら、テーブルを通り越してキッチンに直行する。
「待て待て、今日は俺が淹れてやる。ゆずは座ってていいから」
「でも」
「大丈夫、錬金じゃなくてちゃんとティーサーバーで淹れるから」
慌ててそう言えば、やっとゆずが少し笑った。実際には、茶葉は俺が錬金によって作り上げたオリジナルブレンドティーだがな!
ゆずが好きな、ほんのり甘いトウカの実のフレーバーがベースで、それにこの乾燥させたマリスの花をひとつまみ。
カップに入れて作り置きのクッキーとともに食卓に運べば、ゆずは嬉しそうに目を細めた。
「いい匂い。トウカの実……?」
「するどい。こっちのお茶はトウカの実から作ったんだ」
「いつも思うけど、桃みたいな香りだよね。この甘い香り、大好き」
「だと思ってさ」
そう、これはわざわざゆずのために作ったスペシャルティーなのだ。誕生日にでもプレゼントしようかと思っていたが、意外と出番が早かった。ていうか、作っといて良かった。
「嬉しい……」
噛みしめるように呟くゆずに、俺はニヤリと笑ってみせる。
「待て待て、まだだ」
目の前で温かいお湯を注ぐ。
一気にトウカの実の芳醇な香りが広がった。
そして小さなティーカップの中では、マリスの花がクルクルと踊り出す。
小指の爪の先くらいの小さな白い蕾。マリスの花は砂漠地帯にあるという稀少な花だ。俺はまだ砂漠になんか行ったこともないから、自生している姿は見たことがない。
交易を生業にしているミランダ姐さんから、稀にもたらされる高額な素材。
「わあ!? 花が……!」
思う存分驚くがいい!
頬を上気させ、キラキラの目でティーカップを見つめるゆずを見て、俺は密かに会心の笑みを漏らした。
どうだ、可愛かろう!
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