上 下
10 / 75

お前ら騙されてる!

しおりを挟む
堂々と歩いても人を脅かすこともなければケンカを吹っ掛けられることもないと理解した譲は、その後終始楽しそうに町を散策していた。

どっからどう見てもちょっと声をかけたくなる可愛い子にしか見えない。

正直これがあのいつ見ても藪にらみで町を闊歩し、凄みを利かせていた大男かと我が目を疑う思いだ。姿が違うだけで心持ちまでもこうまで変わるんだろうか。

結果、ギルドへ行って少々店をひやかし、自分達の家に帰るまでに、譲はなんとケーキとキウイみたいなフルーツと、可愛いピアスまで貰っていた。こんなのゲームでもなかった事だ。

あれか?

親切にされ慣れてない譲の、ぎこちない笑顔がいいのか? 初々しさを感じるとでも言いたいのか?

声を大にして叫びたい。


お前ら騙されてる!

こいつ中身は、ケンカっ早くてガン付きの悪い大男なんだからな!!


***************************


「おい陸、なんかお前機嫌悪くねぇか?」


部屋に戻ってくるなりテーブルに突っ伏してグダグダしてる俺を見て、譲は怪訝な顔をした。……譲にバレるくらい俺ってわかりやすいのか……。我ながらがっかりだ。

確かに俺は嫉妬している。

だって、俺の方がこのゲームをやり倒してたんだ。イベントだって概ね把握してるし、上手くやれると思ってたのに。

ゲット出来てるアイテム数には大きな隔たりが出来ているこの状況。

悔しくない筈がない。

そしてそれを口にするのも悔しいんだよ! 察してくれ……。


「食えよ」

「え、なんで。お前が貰ったんだろ」


察してくれたかどうかは不明だが、譲が貰ったケーキを俺の目の前に無造作に置いた。

気を遣ってくれたのか……? とも思ったが、「オレ、甘いモンなんか食わねーし」と言うなり、自分はフルーツにそのままかぶりついて、「げ、皮かてーな」とか呟いてるあたり、他意はないのかも知れない。

ていうか、せっかく可愛らしい顔してんだから大口あけてフルーツ丸かじりとかしないで欲しい。元のお前に比べると顎のデカさとか強靭さとかないわけだから、ちょっとは考えろよ……。

あ、ケーキ意外に美味い。

フルーツがふんだんにトッピングされているからか、甘すぎず瑞々しさもある。これなら譲でも食えるかもな。


「甘すぎなくて美味いよ、このケーキ。お前もひとくちくらい食っとけば? 次会った時、味の感想くらい言っとけよ。それだけでもくれた人は喜ぶんだから」


この世界じゃ、そういう細かい行動も大切だ。これまでの譲の行動パターンから考えるに、絶対にあとからお礼なんて言いやしないだろう。そう思って忠告したわけだが、譲は意外にも「そ、そっか」と受け入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学
ファンタジー
天下無敵の聖女様(多分)でも治癒魔法は極力使いません。知られたら面倒なので隠して薬師になったのに、ポーションの効き目が有りすぎていきなり大騒ぎになっちまった。予定外の事ばかりで異世界転移は波瀾万丈の予感。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】 「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」 ――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。 勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。 かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。 彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。 一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。 実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。 ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。 どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。 解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。 その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。 しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。 ――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな? こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。 そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。 さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。 やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。 一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。 (他サイトでも投稿中)

処理中です...