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忘れるとこだった!

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「こっち」

「アロマライト?」

「うん、香りがいい物とか好きなんじゃないかな」


そう言って意味ありげに見たら、絢香さんはしばらく考えたあとで「確かに!」と同意した。何か思い当たるエピソードでもあったんだろう。


「すげーな、お前! ありがと、助かった!」


花のような笑顔を浮かべる絢香さんは素直に可愛い。しかし別に私はすごくないんだよね、だって攻略本に書いてあったんだもん。

サポートキャラであるさおりちゃんの好感度をあげると、貰える情報の精度があがったり、よりたくさんの情報が貰えたりするから、私もしっかりチェックしていた。

むしろ、なぜお前は覚えていないのか、と絢香さんを軽く問い詰めたい気分なんだけど。


それでも嬉しげにレジに走る絢香さんの後ろ姿を見れば、可愛らしくてなんだかなんでも許してしまいたくなる。絢香さんの後ろを大股でゆっくりとついて行く鬼寺様は、僅かに振り向いて「助かった、恩に着る」と小さく頭を下げてくれた。

鬼寺様、本当に絢香さんの事好きなんだな……と思ったら、少し切ない。妹さんが戻ってきたら絢香さんと入れ替わる事になるんだろうし、今の絢香さんを気に入っている方達は、いくら姿が同じでも性格が違う妹さんにきっと戸惑うに違いない。

絢香さんのためにも勿論頑張るけれど、鬼寺様みたいにまっすぐな気持ちを見ると、ちょとだけ……ちょとだけ、胸が傷んだ。

その考えを振り払うように、私はゆっくりと首を振る。だって絢香さんはそもそも替え玉なのだ。いつかはこの不自然な状況を変えなきゃいけないという事だけは間違いない。

難しい事は考えず、まずはやるべき事をやらなくちゃ。


そう、今私が注視すべきは雅様だったよ。


危ない、危ない。ついつい絢香さんの恋バナ?に気持ちを持ってかれちゃってたけど、その間に雅様、帰っちゃったりしてないでしょうね。そうなったら目も当てられない。

慌てて窓の外を必死に見つめる。

校門から出てくる生徒達の数は既にまばらになっていた。

うわ……マジで、帰っちゃってるかも。ああもう、絢香さんが気を逸らすような事するから! ちょっとだけ八つ当たりしつつ、窓の外の生徒の姿を一生懸命に観察した。

雅様、雅様……。

いないなあ、雅様……。


「何をしている」

「だから、蒲田がダメだったからこっちを当たるんだってば。見逃したら困るから、集中させて」

「手伝おう」

「大丈夫。目立ちたくないの」

「何か不味いのか?」

「うるさいな、もう!」


千尋様や、ターゲットの雅様に見つかったら面倒じゃないの!

その言葉をぐっと飲み込んで振り返ったら、そこには細身ながらも良く鍛えられた胸板が。
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